第23話 言いがかり

「貴様のような下民が居るからリーンフィリア様の高貴さが削がれてしまわれたのだ!」


 グラン副会長、遂に本性を現してきやがったか。


 教室を出ていくSクラスの生徒たちも不思議そうに眺めながら歩いていく。


「何故クロノのような者が居たら私の高貴さが削がれるのでしょうか?」


 これには耐え切れなくなったリア様がグイッとその身を乗り出され、意味不明なことを言い出したグラン副会長に詰め寄る。


「そう! まさにそこです! あなたは気付いていらっしゃらない!」


「何に気付いていないのでしょうか? 気付いていないのはあなたの方じゃないかしら?」


 段々と腹が立ってきたのだろう。リア様の口調が敬語からタメ口に変わっていく。


 尊敬する価値が無いと判断されたのだろう。


 その様子を見てよりヒートアップしていくグラン副会長。


「決闘だ! そこのお前!」


「何が決闘よ! いい加減にしなさい!」


「リア様」


 俺はリア様に呼びかけるとそっと落ち着かせる。


「私の問題ですので私が対処いたします」


 そう言って俺はリア様を守るようにして前に立つ。


「主人に守られてばかりいる卑怯者が! とうとう出てきやがったか!」


 グラン副会長の戯言を華麗に受け流す。


「あなたはいったい何様のつもりなのでしょうか? リア様は枠にはまらないお方。それを無理矢理生徒会という小さな枠に収めようとするとは……嘆かわしい限りです」


 俺はそう言うと、たっぷりと侮蔑の意味を込めた目でグラン副会長を見下す。


「決闘ですか? 良いですよ。謹んでお受けいたしましょう。しかし条件があります」


「条件だと!? 平民如きが生意気な!」


「ああ、受けないのですか? 困りましたね~。自分から言い出したくせに私に負けると思っていらっしゃるのでしょうか? 負けなければ別に条件のことなんてどうでも良いはずですけど?」


「くそっ!条件はなんだ! 言ってみろ!」


 ほう、条件を聞くという事は決闘をするということかな?


「私に負ければ金輪際リア様に近付かないこと。条件はそれだけです」


「ふん!なら貴様が負ければリーンフィリア様の傍から離れるんだな?」


「はい」


 俺ははっきりと頷く。


 その俺の様子を見てグラン副会長はフフッと機嫌が良さそうに笑う。


「これでリーンフィリア様の唯一の汚点が払われる。では、今日この後、そうだな大体18時くらいから決闘場を取っておく。逃げるなよ?」


 決闘場というのは学園にいくつか設置されているもので、主に学生間のトラブルを解決するために置かれている。これは貴族がよく決闘という手法を用いてもめ事を解決するため、あちらこちらでやられると収拾がつかなくなってしまうからだろう。


「私は逃げませんよ。負けませんから」


「フンッ! 一々腹が立つ奴だが、これで居なくなると思うと案外気にならないものだな」


 そうするとグラン副会長は高笑いをしながら廊下を歩いていく。


「……クロノ。私は嫌よ。離れるのは」


「大丈夫。あんな小物にクロノが負けるはずない」


「いくら強いと言ってもこの学校の副会長が相手だよ? いくらクロノでも心配っていうか」


 リア様は俺の本当の実力を知らない。そのため、少し心配させてしまっているようだ。


「安心してください。私は負けません。飛んでいるコバエを手で払うだけですよ」


 俺は笑顔でそう言いのけるも、リア様のお顔はどことなく不安そうだ。


「それにしてもあそこまで非常識な方だとは思いませんでしたね」


「俺もそれだけは想定外だったな。普通に平民を見下しているだけのよくいる貴族だと思ったけど、見下してるんじゃなくて嫌っている貴族の方だったな」


 たしか、彼の家は伯爵家だった筈。案外中途半端に高い地位の奴の方が無駄に自尊心が高いのだろうか。


「しかし、18時ですか……そうなってくると、リア様をお送りした後に戻ってくることになりますが」


「私も行くわよ」


「ですよねー」


 なんとなく予想はついていた。


 それから、俺達は決闘までの時間を王都に新しくできたお店の話なんかをしながら費やすのであった。

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