第9話 貴族

「凄いですね~、リア様。まさかあんなに高い数値の能力をお持ちだったとは」


「ありがとう。でも不思議ね。どうして私よりも強いクロノが私より能力強度が低いのでしょうか?」


「ハハッ、それは謎ですよね~。多分、リア様の方がお強くなったのではないでしょうか?」


「うふふっ、それは無いわ」


 試験終わり。リア様と試験の余韻に浸りながら宿への帰路に就く。俺はリア様の一歩後ろに控えて歩いている。


 リア様の出した値はブロック内でも受験者の中でも最も高い値だったらしい。恐らくクラスは最高のSクラスになるだろう。


 俺もできればSクラスが良いな。というかそうでないとリア様の付き人が務められないから困る。


 しかし、それも試験の結果次第。もしかしたら合格者の中の能力強度順にクラス分けがされるのかもしれないが、飽くまで試験官は参考にするといっただけだ。


 まだ分からない。


 そうしてリア様と試験の感想を話し合いながら歩いていると、前方から女性の金切り声が聞こえてくる。


「ちょっと、あなた! 平民のくせに生意気じゃない!?」


「え、でもあれは試験ですし……」


「試験でも伯爵の娘であるこのエミリー・ウェザードに逆らっても良いのかしら?」


「そ、それは……」


「あなた、確か兵長の娘だなんだと言っておられましたよね? 私の父上は将官です。父に言ってあなたの家を路頭に迷わせることだってできるのですけど?」


「そ、そんな理不尽な!?」


 貴族の言葉を聞いた少女はまだあどけなさの残るその幼い顔を青ざめさせる。


 恐らく貴族のご令嬢が先程の試験であの平民に負けたのだろう。それで腹を立てて理不尽にあの平民に怒りをぶつけているという訳だ。


 アークライト家で麻痺していたが、貴族にはこういう輩が極めて多い。


 それに伯爵家という無駄に大きな貴族のため、大人数が二人を見ているというのに誰も助ける気配が無い。


 ――いや、一人だけ居たか。


「ちょっと、そこのあなた?」


「なんですの! 今、取り込み中でし、て、? って公女殿下!?」


 そう、我が主リア様である。


「お初にお目にかかります。私、ブルダン伯爵の娘、エミリー・ウィザードと申します。本日はお日柄も良く……」


 相手が公女と分かると途端に態度を変えるんだな。


 俺はリア様の後ろからその光景を眉をひそめながら見つめる。


 リア様も不快に思われたのだろう。相手の挨拶を途中でバッサリと切ってしまわれる。


「そんな長ったらしい口上はどうでもよいです。それよりも今、あなたは何をしていらっしゃったのでしょうか? 見たところによると、そこにいらっしゃる我らと同じ志を持つ者に対して脅迫していたように思えるのですが?」


「はっ? え、いえ、そんな脅迫していたわけではなく少し礼儀作法を知らない子でしたのでお説教の方をしていたのですよ」


「私が聞いた限りでは父上が将官でどうのこうのと仰っていたように思いますが?」


「そ、それは」


「私の父上は軍務大臣なのですが、今度聞いておきますね? もしも、ウェザード伯爵が娘に兵長を勝手にクビにできる権限を渡すほど愚かな人物ならばそのことを報告しなければなりませんし」


「そ、それはどうかご容赦を! 父上は関係ありません! 全て私の責任です!」


 リア様が妖艶に微笑みながら言うと、その貴族令嬢は地面に跪いて許しを請い始める。


「そうおっしゃるということは脅迫していたことを認めるんですね?」


「……」


「そうですよね?」


「……はい」


「では謝ってはいかがでしょうか?」


「申し訳ありません」


 そう言って令嬢が頭を下げたのはリア様に対してであった。どうしても平民に頭を下げるのはプライドが許さないらしい。


「ふざけているのかしら?」


「も、申し訳ありません」


「え、あ、いえ」


 リア様の威圧に負けとうとう平民に頭を下げると、そのままお貴族様は去っていってしまう。


「相変わらずですね、リア様は」


「同じ貴族として恥ずかしかったからね」


 まるで何でもないとばかりに仰ると、リア様は平民の少女に話しかける。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 そう言うと、リア様はその平民の少女に対して頭を下げる。


「い、いえいえ、寧ろこちらが助けていただきありがたいといいますか。で、ですので頭をお上げください。恐れ多いです」


 いきなり大貴族の令嬢から頭を下げられたのだ。そりゃあ誰でもこんな風に困惑してしまうだろう。


 リア様は頭を上げると、少女に名前を尋ねる。


「エミィというのですか。そうですか、良い名前ですね」


「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」


 先程までの怯えた表情から一転してパアッと明るい顔になる。


 リア様には人を笑顔にする謎の力がある。その力のお陰で何度助けられたことか。


 そうしてリア様は何かあったら自分に言うようにと平民の少女に仰るとそのまま帰路に就くのであった。

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