第8話 再測定

 結局、あの後は順当にリア様が勝っていき、あのブロックはリア様の優勝となった。今回は受験生が多いため、3ブロックに分かれているのでリア様が実技試験で一位なのかどうかは分からないが。


「おめでとうございます、リア様」


「私にとっての鬼門はクロノだけだったからね。あなたが手を抜かなければ勝てていないわ」


 決勝戦を難なくこなし、戻ってきたリア様を労うために近付いていく。


「取り敢えず私もリア様も受かってそうですね」


「そうね、流石に落ちてはないでしょ」


 もし落ちていたとしたらその時はここの学長を脅してでも合格に変えてやる。


 そんな黒い思いを抱いていると、試験官から思いがけない言葉が発せられる。


「今から能力強度を測らせてもらう。これは飽くまで計測を取るだけで試験の合否には影響しない。ただ、合格者のクラス分けの参考にさせてもらうだけだ」


 能力強度を測るだと? 去年まではそんなものは無かったはずだが。


 4年前に能力強度を測った時のことを思い出す。


 あの時、1回目は能力を手加減せずに測ったら壊れてしまい、2回目はその失敗を生かして能力を抑えたら0という結果になってしまい追放された。


 今では、十分に手加減することはできるようになっているが、あれから怖くて測っていないためどうなるか分からない。


 幸い、エルザード家の家名を冠した者の記録が世界最下位に書かれているというのが気になったようで、記録から俺の能力強度『0』という結果は消されていたため、俺の名前が広く知られることは無かった。


 しかし、今回はそんなことは無いだろう。それにアークライト家の付き人として、何よりお嬢様が下に見られないように確実に無難な能力強度を出したいものだ。


 俺は5番だ。そのため、早めに順番が来る。


 今、1番の者が呼ばれていった。


 結果は1080。周囲の反応は普通である。


 次の者は5020。すると、どうだろうか。周囲の反応は好印象よりだ。大体5000程度を目指せばある程度の勝算は得られるようだ。


 記録で見た感じだと5000台は確か10000位くらいだっただろうか。


 よし、俺が目指すのは5000くらいだな。


 俺は自身の内側に潜む破壊の能力を抑えることに集中する。


「次、5番。クロノ」


「はい!」


 とうとう呼ばれたか。


 緊張の面持ちで俺は前へと歩いていく。


「頑張って!」


 能力強度の測定に頑張るも何も無いだろう。しかし、リア様は俺の様子を見かねて励ましの声を掛けてくれる。


 俺はリア様の呼びかけに答え、神妙に頷く。


 そうして、能力強度測定器の前に立つ。


「では、ここに手をかざしてくれ」


 ドクンッドクンッと脈が波打つのが分かる。


 あの時の思い出が頭の中でフラッシュバックする。


『クロノ……貴様には呆れた。まさか能力強度が『0』だとはな。今まで育ててきた分を返して欲しいものだ』


 これが息子にかける父親の言葉だ。


 俺は歯を食いしばってそのイメージを消し飛ばす。


 今の俺はアークライト家の使用人だ。こんなところで恥をかかせるわけにはいかない。


 思い切り、腕を伸ばし、測定器へと手をかざす。


 大丈夫、俺は魔神の軍勢との戦いで十分に成長した。俺はできる。


 パアッと光り、画面に表示された数字をおそるおそる覗き込む。


 結果は50860。順位は2062位であった。


「ほう、5桁とはやるな」


 スクリーン上に映し出された50860という数字。それを見た受験者たちはその結果に驚嘆する。


「学生で5桁だと!?」


「それに順位も4桁なんて!」


 その反応はさまざまであるが、どれもが俺を称賛するものである。


 嬉しくなってリア様の方を見ると、飛び跳ねて喜んでくれている。


 それだけで俺は満足し、リア様の下へと戻っていく。


「凄いじゃない! あんなに緊張していたくせに!」


「ありがとうございます。でも、あれは緊張しますよ。ただでさえ平民がリア様の付き人というだけで白い目で見られるのにここで悲惨な結果を出せばリア様のお顔に泥を塗ることになりますし」


「もう、またそんなことを言って」


 自分は馬鹿にされても良い。しかし、俺の心を救い出してくれた恩人であるリア様もとい公爵家の人間が俺が原因で馬鹿にされるのはあってはならないことだった。


 それゆえにまあまあの結果を出せて良かった。本当は5000を目指していたんだが。


 どんどんと受験者たちが測定に呼ばれていく。そこで分かったことだが、ここの受験生は優秀な者が多いらしく、5桁の能力者が続出する。


 中でも決勝戦でリア様と戦った白い髪の青年は10万8020、1683位という好成績を出し、俺の時以上に周囲を沸かせていた。


 現在、俺は上から数えて5番目くらいだろうか。案外、皆やるな。


 そうしてようやくリア様の番号が呼ばれる。


「よし、私もクロノに負けてられないわよ!」


「ハハッ、応援してますよ」


 力こぶを作ってリア様が測定器へと向かう。


 トーナメントの優勝者に対する期待の眼差しが囲うなか、遂にリア様が手をかざす。


 そして表示された数字は『20万8064』実に1062位という、このブロックにおいて最高の値を叩き出したのであった。

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