第7話 実技試験②

 最初にハプニングはあったものの、それからは順調に実技試験が進んでいく。俺は能力をあまり使うことなく無難に勝ち進んでいき、とうとうリア様と当たることになる。


「来たわね、クロノ」


「これは困りましたね」


 これが準々決勝となる。これを含めて後3回勝てば優勝となる。しかし、俺にはリア様を倒す気など毛頭なかった。ここまでくれば合格は確定だし、なにより本来ならば付き人如きが主人に対して牙をむくことすら許されないのである。


「この学園は身分なんて関係ない、実力社会よ。遠慮せずに本気でかかってきなさい」


「無茶を仰る」


 ここまで俺とリア様はあまり能力を見せることなく、純粋な戦闘力だけで相手を下してきた。


 そのため、受験生からすればある意味で期待の組み合わせなのだろう。まるで観客かのように受験生が沸く。


「では始め」


 試験官の合図とともにリア様が動き出す。


 公爵家から思っていたがいつ見ても洗練された動きだ。


「ハアアアッ!」


 リア様から放たれた拳を体を反らして避ける。


 しかし、ここで油断してはならない。


 即座に放たれる蹴りに柔軟に反応しつつ、その次に繰り出される後ろ回し蹴りを腕をクロスさせて受け止める。


「やるわね」


「リア様こそ」


 俺が普通に反応して回避することはできるが、常人ならばリア様の動きを追うことができずに既に地に伏していることだろう。


 能力を使わずにこの強さ。流石はここまで一切能力を使わずに勝ってきただけはある。


「クロノにはやっぱり能力を使わないと本気になってくれなさそうね」


「何の話でしょうか?」


「とぼけても無駄よ」


 リア様の手に光のエネルギーが集まっていく。


 そして放たれるは煌めく極光のエネルギー。


 リア様の能力は『光の破片』という名前である。その能力がどれほどの力を秘めているかは分からないが、リア様はよくこのような攻撃をする。


 俺は素早く体を動かし、迫りくる閃光を避ける。


「ほら!能力を使わないと勝てないわよ」


「いえいえ、流石に能力を使ってもリア様には敵いそうにないですよ」


 次から次へと放たれる灼光。それを俺は能力を使うことなく避けていく。


 しかし、高位能力者に対して能力を使わずに回避するというのはいずれ限界が来るものである。俺の足を一筋の光がチリッと掠める。


「くっ」


 俺はその熱さにバランスを崩してしまう。


「隙あり!」


 バランスを崩し、隙を見せた俺のことを当然リア様が見逃すはずは無い。


 光の速さで俺の懐まで潜り込むリア様の手には収縮されたエネルギーの塊が。


 最早リア様が勝ちだといっても過言ではない。よし、この状況なら俺が負けてもなにも違和感はない。


 しかし、勝てそうだというのにリア様の表情は不機嫌な時と同じ顔をしていた。


「どうして本気を出してくれないの?」


 そう言いながらリア様は光を放つ。


 その悲しげなリア様の表情に俺は胸がチクリとする。リア様からすれば本気の戦いで手を抜かれたのだ。それはもうお怒りのことだろう。


 ――仕方ない。少しだけ力を見せるか。


「……少しだけですよ?」


 俺は『破壊者』の力を使い、自分の身に纏う。本当ならば少し触れるだけでもリア様に危害を加えるかもしれなかったから使いたくなかったんだけどな。


 やがて、光の束が俺の体に降り注ぐ。


 ドガンッ!!!!


 土煙が上がる。煙が晴れると、そこには立っている者と床に倒れている者がいる。


「勝者! リーンフィリア・アークライト!」


 リア様が倒れている俺に手を差し伸べる。


「どうして負けた方が無傷なのよ」


「何のことでしょう?」


 俺は差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。


「でも、良いわ。許してあげる。初めて能力を使ってくれたし」


「それは良かったです」


 正直、俺はリア様が怒っていないかビクビクしていたのである。ビクビクしながらも俺は正体がバレると公爵家に居座ることができないかもしれないため、能力を使いたくないのだ。


 心の中ですみません、と謝り、俺とリア様は試験場から降りる。周囲からはリア様が俺を終始圧倒していたように見えたのだろう。


 リア様に対しての称賛の声があちらこちらから聞こえてくる。


「頑張ってください、リア様」


「本当ならあなたが勝ってるから凄く不本意だけどね」


 あっ、だめだ。やっぱり怒っていらっしゃる。後で改めて謝ろう。そう心に決めるクロノであった。

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