第6話 実技試験①

「では、次の試合。5番の者と20番の者は前に」


「あっ、呼ばれたみたいですね。行ってきます」


「うん、頑張ってね」


 俺はリア様に見送られながら試験場へと上がる。


 そのタイミングで丁度20番の者も上がってくる。金髪の男だ。


「よろしく」


 俺が金髪の男に歩み寄り、握手をしようとすると、その男は明らかにこちらに敵意を見せて俺の手を払いのける。


「下民が俺に触るな」


 なるほどな。どうやら仲良くはできないらしい。


 その傲慢そうな瞳は俺を睨みつけ、尊大な態度を取る。恐らく貴族なのだろう。同じ貴族でもリア様とは大違いだな。


「試験官、突っ立っていないで早く始めろ」


「……分かった。では両者所定の位置につけ」


 試験官はその偉そうな物言いの受験生に言い返すことなく、淡々と試合開始の準備を促す。


 俺は正直、貴族には詳しくない。ただ、周りの反応からして目の前の存在が高貴な存在なのだということは分かる。


「では、始めろ」


 試験官が開始の合図を言った瞬間、目の前に居た金髪の男は無造作に距離を詰めてくる。


 あまり戦闘慣れしていないのだろう。走っている間の重心にぶらつきがある。


 俺はその弱みを突き、金髪の男に詰め寄ると、男が拳を突き出したところで腰を深く落として男の足を薙ぎ払う。


「ぐあっ!」


 案の定男は軽く放った俺の足払いに耐えることができずにその場にしりもちをつく。


 俺は倒れた男に追撃を加えようとするが、男の無理矢理放った蹴りに違和感を覚え、一歩後ろに退く。


 ――ビリッ


 男が放ったただの蹴りが服に掠っただけで、まるで刃物で切られたかのように服が破れる。


 そういう能力者なのだろうか?


 俺は不思議に思い、起き上がった男の足先がキラリと光るのを見て、理解する。


 男の靴には出し入れできる短剣のようなものが仕込まれている。よく見れば服の裾にも光る何かが見えるため、そちらにも仕込んでいるのだろう。


「試験官さん、質問です。この試験に武器の持ち込みは大丈夫なのでしょうか?」


 俺の言葉に男はあからさまにギクリとする。


「いや、武器は許可していない。飽くまで各人の能力を見極めるための試験だからな」


「ならばそこの方は失格ですね。体の至る所に刃物を忍ばせていますし」


「なっ、い、言いがかりだッ! 俺は何も仕込んでいない!」


「仕込んでいないなら服の裾をまくって見せてみろ」


 俺の言葉に男は顔を歪ませる。


「どうした? 見せられないのか?」


「う、うるさい!」


 男は俺の言葉を聞かず、殴り掛かってくる。


 そして俺の顔をめがけて銀色に光る刃が迫ってくるのが見える。


 前から見れば丸わかりなのだが、横からは見にくいのだろうか。


 仕方ない。証拠を見せるか。


「ブレイク」


 この4年間で手加減をすることを覚えた俺は『破壊者』の能力を最大限まで弱めた一撃を男にではなく、男の服に隠された短剣に向けて放つ。


 ――バキンッ!


 俺の攻撃はいとも簡単に仕込まれた短剣を砕く。


 砕かれた短剣の剣先がシュルシュルシュルと試験場の床を滑っていく。そして、コツンッと試験官の足にぶつかって止まる。


 試験官はその剣先を持ち上げると、男に問う。


「これは何だ?」


「そ、それは……」


 問われた男は顔を青くして言葉を詰まらせる。


 試験官はその男の姿をみてやれやれと首を振る。


「子爵家の跡取りともあろうものが学園の入学試験でこのような不正を行うとは呆れたな」


 どうやら男の家は子爵だったらしい。大方、この学園に入れなければ継承権が無いため、切羽詰まっていたのだろうか。それとも一次試験がうまくいかなかったとか。


「20番は反則により失格。よって5番の勝利だ」


 自分が敗北というのではなく、失格したのだという言葉を聞いた男はうなだれるようにして崩れ落ちる。要は試験自体が失格ということだからだ。周囲からは卑劣な反則行為を行なった男に対する侮蔑の言葉が飛び交う。


 俺は不本意な結果ながらも試合場からおり、リア様のところまで戻る。


「災難だったわね」


「まあ、お陰様で勝てましたけど」


 何にせよ俺は無事に一回戦を突破した。

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