第17話
5.才能世界とルリカ
それから、半月が経った。
体は思ったよりも早くこの世界に慣れたようで、すぐに退院する日が決まった。
その先の歩む進路も決めつつあった。
僕を受け入れてくれる場所の候補がある。
後は退院して、それからゆっくり決めていけばいいと先生も家族も言っていた。
もうすぐで、この病院とも、あの無才能世界とも完全に離れ、生活することになる。
もちろん、少女とも。
当たり前だが、先生は少女の状態をあまり明らかにしてくれなかった。
だが、状態は良くないことは容易に伝わった。
これだけ心配なのに、何も、する術がない。
僕は今日から、カレンダーに終わった日に、印を付けていくことにした。
これが満たされたとき、僕はもう前だけを見て、歩くのだ。
迎えた退院の日。
先生は
「人生は余裕が無くなってからが本番ですよ」
最後にそんな言葉を残して、僕を見送ってくれた。
何も無い僕が、本当にこの才能に溢れた世界を歩けるのだろうか。
だけど失うものが何も無い僕には、そう不安がることもないのだ。
僕は少女についての不安を見ないようにすることを決め込み、無理やりに気持ちを作った。
僕は送迎の車の中から、見送りに来た先生や看護師さん達に手を振った。
父親の運転する車が、走り出した。
僕が目を覚まして、半年が過ぎた。
僕が前だけを見て生きているかと言われれば、そうでもない。
だってこうして、退院して新しい生活が始まっても僕は、1日に2回、病院の周りを散歩しに行くのだから。
それはひと口に言って、少女が退院するかもしれないと思っているからだ。
会いたいだとか、また前のように仲良くしたいだとか、贅沢は言わない。
最後にひと目でも少女の顔がまた見たい。
それが笑顔だったなら、もう、文句は言わない。
だけれど、その日はなかなかやって来ない。
今日も受付の人に伺ったが、そんな人は退院していないという。
もうきっと諦めた方が、いいのだろう。
往生際の悪い癖が治らずに僕はまだ立ちすくんでいる。
慣れないなりに僕もそろそろ、前を向かなくてはいけない。
彼女も実験がまだ続いているなら、その過酷さに僕のことなんか忘れているかもしれないし、目が覚めたなら、新しい生活に向けて準備している最中かもしれない。
何にせよ、僕が入る隙間なんて、ない。
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