第16話

4.才能世界とルリカ



親や知り合いは才能世界の方の見た目から人格を写しているため、お見舞いに来てくれた人達とは難なく打ち解けた。


無才能世界に移された時期はさだかではない。


だが、生まれたばかりで移されたわけではないようだ。


それまでいたはずのこの世界は、まるで訪れたことのない、異世界のように思えた。


そう思うのも無理はないほど、変貌を遂げていたのもある。


僕は四季もあり、目まぐるしく回るこの世界で生きる準備を始めようとしていた。



生まれながらに、この世界に来た者は仕事があるらしい。


3歳から5歳程で発芽する才能に合った仕事が、その人の進路となる。


遅くとも18歳までには発芽するはずの才能。


ひとえに絵を描く才能を手にした者達でも、忠実に描くことができる者や、空想に描いたものを描くのが上手い人間、どちらの才もある人間など、その才能の種類や系統は多岐に渡る。


そんなことが普通の世界だからこそ。


才能を持たずに生まれた人間はこの世界で生きるには過酷すぎるらしい。


それを、僕は目の当たりにしていた。



流れていく月日に、才能だと言われてから書くことが覚束おぼつかなくなった日課。


何も残せないまま、僕はその残酷さに目を合わせないようにしていた。


何も残せないなら、僕は用済み、と捨てられるだけだ。


無理やりにでも書いてみると、自然と、少女のことが浮かび上がってくる。


「君のいない世界は、埋まることのないパズルをはめる作業みたいだ」


何をしても意味が無く、虚しいだけの。


これまでも、そしてこれからも何も無い僕は、まだ君のことが忘れられないようだ。


もう君は、僕のことなんて忘れてしまっているかもしれないけれど。


「いない君を何度でも書き直す。僕に才能があるなら、それが唯一の僕の才能だ」

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