第11話

10.君と僕の終わらない世界



「たいせつなひとがけがをしたって、きいて」


僕は言い表せない感情が次々に湧いて出てくる衝動を上手く抑えられなかった。


ひとまず、少女の身に何かあった訳ではないことに安堵した。


だけどすぐに。


君には相手がいるんだな。


何も無い、僕と違って。


可憐な君にはきっと言い寄ってくる男も多いのだろう。


僕なんかいなくたって最初から、君はなんともないのだろう。


引きつった顔の筋肉が、上手く笑顔を作れない。


顔を故意的に違う方へ向けた。


勝手に少女を人生の希望になんてしてた僕が、バカみたいだ。


もしかしたら少女が言ってるのは恋人じゃないのかもしれない。


それでももし、この予感が当たって、恋人だったとしたら、という感情と劣等感とが、真実を聞こうとする僕を邪魔した。


僕には何も、無いのに。


逃げ出したくなって、僕は


「ごめん、ここでいいかな」


そう言ってついてこようとする少女を遮った。


身勝手なのはわかってる。


自分の、はした感情なのも。


だけど、これ以上少女と一緒に居られる気がしなかった。


居たくない僕がいた。


明らかに戸惑い、歩きを止める少女をよそに、僕は早足で学校を目指す。


終わらないことを嘆き、出口を泣き叫びながら独りで探す、取り残された僕と違い、終わらないことを知っていても、にこやかで平和な世界をどこかの誰かと幸せに歩く君。


何が違うんだろう。どこを間違えたのだろう、僕は。


八つ当たりしようのない苦しみに、僕はとりあえず学校に着くことだけを考えた。


この感情はどこにぶつけよう。君に、親に、知り合いに、先生に。


僕には誰もいないことを思い知った。


先に泣き出したのは空ではなく僕だった。



その日の授業は何も頭に入って来なかったと言っていい。


ずっと集中できなくて、よく、何も無い天井を見上げていた。


帰り道、少女はいなかった。


いないことに少しでも残念がる僕はさすがに自分勝手すぎると自己嫌悪した。


僕は自分でも気が付かない内に、僕が夢を語った時の少女の表情を思い返していた。


その時、少女は笑ったり、責めたりするどころか、キラキラと目を輝かせて、何度も頷いていた。


そして少女は言った。


「そのみらい、わたしもみたいな」


約束だね。


2人で小指を交差させて、昔のおまじないを唱えたことを今更、思い出した。


思い出しても、仕方がないのに。

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