第9話

8.君と僕の終わらない世界



その日は朝、雲ひとつない快晴だったのに、午後から冷たい雨が降り出した。


降り出した時、僕はもしかしたら待ってくれているかもしれない少女のことで、頭がいっぱいだった。


ただの雨じゃなく、とても冷たいのだ。


凍えてしまう。



授業が終わって、校門あたりに居るはずの少女を探す。


だが、いなかった。


傘に当たる雨粒の音が鋭く、重さを増した。


僕はその場に立ち尽くしたまま、歩き出せずにいた。


「ただの用事だったらいいけど」


もしも何かあったら……そのことを考えると全身が粟立つ(あわだつ)ような感覚を覚えた。



自分に「大丈夫」を言い聞かせて、家に帰った後、僕はあのノートを前にぼうっとしていた。


このままじゃダメだ、とペンを持って何かを書こうとする。


書けた呟きはとてもいつもの物とは程遠い。


勢いも熱も儚さも美しさもない。


少女の輪郭さえおぼろげな、寂しさの、塊のような何か。


僕にとっての悲鳴のような文字の羅列。


そして、まだ書き途中だというのに、唐突に書けなくなってしまった。


どのペンもインクが出なくなったのだ。


なんだかいい事がないどころか、悪いことばかりが起きる今日に、思わず顔を歪ませ紙をビリビリに破いて捨てた。


それだけじゃ飽き足らず、ノートを丸ごとゴミ箱の中へ放り投げた。


その日はご飯も食べず、ベットの中でうずくまっていた。


明日が来るのが嫌だった。悪いことがなぜだかもっと続く予感がした。


僕の予感は思い描いたのが、悪ければ悪いほど当たりやすい。

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