第6話
5.君と僕の終わらない世界
老眼鏡をかけたおじいさんの先生が今日の内容を説明する中、僕はそっと持っているノートをパラパラとめくった。
これは授業用のノートではなく、僕が思いついたことや詩をしたためるためのノートだ。
その最後の書き後は少女に会う前で止まっている。その内容もとても人に言えたものではなかった。
僕には密かな夢がある。
いつかこのとても作品とは言えない書き散らしを何かのものにして人に発表することだ。
来たるその日に向けて僕は、少しずつ日々感じた感情をちゃんと書くことにしている。
例えそれが繰り返される世界の中であったとしても。
いつか僕が変われば、この世界は進んだり、変わったりしてくれるんじゃないかと。
そんな誰にも言えない期待が止まないのだ。
次は女の子が出てくる物語のあらすじでも書こう。それはもちろんあの少女がモデルの。
そう思って、僕はノートを閉じた。
授業終わり、この後使う授業のない教室に残っていた僕は、ノートを開いたままいつの間にか眠っていたらしい。
はっと目を覚まし、辺りを見回す。
カーテンの引かれた大きな窓からはオレンジ色の光が入ってきて、教室をぼんやりと夕焼け色にライトアップさせていた。
開きっぱなしのノートには今日も、箸にも棒にもかからないような言葉が並んでいる。
きっとどれを繋げても、あの素敵な物語にはならないのだろう。
14だった僕を思い焦がしたあの僕の原点とも言える物語には、どうやったって近づけないのだろう。
帰り支度をする。廊下を歩いている途中何度か先生に会って、
「まだ居残ってたの」
と声をかけられた。
考え事をしてたら、こんな時間に……と少し話をして今朝入った入口……学校の校門へと向かう。
歩いていると考えることがあった。
何度も何度も辞めようとした、この小説や物語への執着。
それを何度も諦めきれずに、僕は今ここで立っている。
結局、僕は大学も、直接文学とは関係ないけれど、どこか似ているようなところを選んだ。
自分に合った将来に落ち着いた。
これから、きっと劇的な変化などないこの人生に、それでも弱い希望のようなものを見つけて、生きていくことを選んだ。
夢は叶わない。
自分を愛してくれる恋人はできない。
取り柄など、何一つない。
欠落ばかりの人生。
それでも続く終わりのこないこの世界で、その日がくるまで、ずっと僕は僕のまま存在しているのだろう。
明日も明後日も、1ヶ月後も。
それが積み重なることなく、繰り返される運命であったとしても。
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