第5話

4.君と僕の終わらない世界


次の日。


僕はよだれを垂らして寝ていたことに気がつき、幾日ぶりかに熟睡していたことに少し驚きながら家族と朝の挨拶もそこそこに家を出た。



するとそこに。


昨日の少女が立っていた。


裾のほうに水色の刺繍のある白いワンピースを風になびかせながら、はにかむようにして。


「おはよう」



少女はなんだかご機嫌のようだった。


何かあったのかと尋ねると


「きのうはいいゆめをみたの」


僕の前を歩き、鼻歌の途中で、振り返ってそう答えてくれた。


答えより、尋ねたことに返してくれたことが嬉しくて


「そうなんだ!」


といつもよりもずっと明るい声が出る自分にまた驚いた。


「いいの。ねているあいだはかんがえなくて」


と少女は笑った。


僕が久方ぶりに熟睡できたのも、実は少女のお陰かもしれないとその背を見ながらひそかに思った。



「じゃあ、僕はここだから」


学校に着いて、少女とお別れする時になってしまった。


前はなかったのに、最近咲いた、名前も知らない綺麗な花、どこか小学校から流れてくるチャイムと賑やかな子どもたちの声、透き通った、これから冬になる空気。


そのひとつひとつに少女と顔を見合わせ、話し合った。


少女との通学路はいつも下を向いて何の感情も抱かなかった世界とは違い、何もかもが意味を持ち、鮮やかに見えた。


言葉にさえできなかったが、少女と別れるのが寂しかった。


少女は


「うん」


そう言って優しく小さく手を振った。


僕も手を振り返した。



2人別れて、僕は階段を登る途中、そういえば、と考えた。


少女は朝、僕のことを待ってくれていたのだろうか。


はにかんだ笑顔を思い返す。


胸の奥がきゅっとなる不思議な感覚に囚われた。


そんなことに気がいっている間に授業のある教室に辿りついた。


同じ学科を専攻している、知り合いを遠目から何人か見つける。


今日もまた、変わらない今日が始まっていた。

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