第5話
嘗ては人間同士が罵詈雑言を飛ばしあったという国会議事堂の一角に倫理委員会の部屋はある。思春期に人間は愚かな生き物だと見切りをつけたきっかけは意味のない政策に対してヤジを飛ばす国会議員を見た時だ。不幸な事に私もその愚かな人間の一人に過ぎない。
しかしながら、私は社会を変えたい一心で人工知能「ミライナ」の創造に成功した。ミライナの登場で社会は一変し今は人工知能が導く未来というレールの上を社会は走っている。問題も不安もない。全ては私の思い通りにいった。
──倫理委員会を除いては。
『警備システムです。ご用件は』
国会議事堂に入ろうとすると、警備アンドロイドが行く手を阻んだ。私はストライクファミリーのICタグ付き社員証を警備アンドロイドのカメラ部に向ける。
『大野友孝さんですね。お入りください』
「警備アンドロイドに私は記録されておりませんので、ここから先は大野社長だけお進みください。外でお待ちしております」
「分かった」
私は嫌な予感がしていたが、国会議事堂の中に入った。何故嫌な予感がしているかというと野崎からどんな注文が飛んでくるか分かったものではないからだ。
【特別法人 大日本倫理委員会】
重々しい木彫りのカードが貼られた重厚な扉を私はノックした。
「入れ」
中からしゃがれた声が聞こえた。野崎だ。極めてアナログで、中立の名の元に権利を集中させた目障りな存在。大日本倫理委員会。私はその扉を開いた。
「ご無沙汰しております。野崎さん」
「去年のインシデント以来かね。よく来てくれた。さぁそこに座って」
「ありがとうございます」
これまた重厚な木で作られた机と椅子があり、私はその一つに腰かけた。
「ミライナが作ってくれた長期計画、拝見させて貰ったよ。うん、良く出来てる」
「お忙しい中見て頂きありがとうございます」
ホログラフィーによって投影された長期計画書がきらきらとしていた。ミライナが書いたんだ。間違いはないはずだ。
「拝見したんだがな、ちょっと気になる点があってね」
「少子高齢化対策の節でしょうか」
「なんだ、分かってるじゃないか。そうだよそこそこ。これね、流石にまずいなと思っているんだ。今日は全員リモートワークで居ないけど、倫理委員会で審議にかけたんだ。そしたら満場一致で改善の余地ありって言われちゃってね」
出たでた。お得意の満場一致だ。いつも何かを提案する時、野崎は満場一致という言葉を使う。倫理委員会の他の連中なんて、二〇二〇年代を古き良き時代だと夢見ている低脳な奴らだ。
そんな奴らの言ってる事なんて信用出来ません、と言ってやりたい所だがこちらも立場がある。倫理委員会は国連と直結している。もし倫理委員会に歯向かえば、国連からストライクファミリーの業務停止を喰らうかもしれない。ここはグッと堪えるしかない。
「なるほど。ミライナにもう一度プランを練り直して貰いましょう。」
「面倒かもしれないがよろしく頼んだ」
さて、ここからが緊張の一時だ。ミライナは一体どんな答えを出すだろうか。私は生唾を飲み込んだ。ワクワクして堪らなかった。
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