第3話

 今日も気だるい一日が始まりそうだった。ベーシックインカムを貰いながら生きている生活って一体何なんだろう。

 二〇六〇年夏。場所は東京。昔から大都会だったというが、ここ数年はベーシックインカムを貰って生活を行う人々の団地が乱立し、商業ビルは殆ど無くなっている。

 ──ストライクファミリーを除いては。

「石田さん。今日の朝食の支給です。ポストに入れておきますね」

「ありがとうございます」

 今日も配達員の人がやって来て、携帯食料を置いていく。ストライクファミリーが目指している社会はこんなものなのだ。

「私が御社を目指している理由は──」

 私はかつてストライクファミリーを就職活動で受けたことがある。理系の大学に進み、大学院まで進学した私は人工知能を専攻していたため、ストライクファミリーが所有する巨大AI「ミライナ」の設計に携わりたく思い、志望した。

 だが結果は惨敗。その後しばらくして、腐りきった日本の政治システムにストライクファミリーが介入し、日本国は事実上ストライクファミリーの所有物になったのだった。

 最近はベーシックインカムで足りないお金をスーパーマーケットのレジアルバイトでしのいでいる。ストライクファミリーの技術を最大限使えば、スーパーマーケットの無人化は簡単らしい。だが、雇用が無くなる事を危惧したストライクファミリーは倫理委員会と協議し、敢えてアナログなシステムをこの現代に残した。

 戦争も無ければ、不安もない。お金にも困る事もないこの日々を私たち黙々と過ごす。当然ながら彼女もいない。一体くそったれみたいな生活はいつまで続くのか。

「人生もっと楽しみたいな」

 私はボソッと口に出してみた。その声の虚しさが余計に心に突き刺さり、声に出した事を改めて後悔した。

 私はベランダに出て煙草を取り出し火をつけた。

「ミライナはどんな未来をデザインするのかな」

 ベランダから超高層ビルが三棟見える。そう、ストライクファミリーの本社ビルだ。あの建物の中に巨大AI「ミライナ」のスーパーコンピューターの親機が存在している。朝日と超高層ビルが重なり、まるでダイヤモンド富士のような光景になっていた。

 神同然の存在であるストライクファミリーに我々一般市民は逆らえない。インフラシステムからバイオテクノロジーまで、全て網羅した会社に隙など無いのだから。

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