第2話

「おい、このデータ破損してるぞ」

 ストライクファミリーの平社員である私、大葉信三おおばしんぞうはいつも通り仕事を行っていた。最近新入社員で入ってきた使えない部下、軒香織のきかおりに手を焼いているとこらだった。

「すみません! すぐに直します!」

「頼むぞ軒。初歩的なミスはするな」

「分かりました!」

「それにしても、よりによってなんでうちの部署に来たんだ?」

「エターナルアースプロジェクトには興味があって。地球丸ごとデータに収めるっている規模感がとても好きで! ──それに」

 軒は自分の得意な分野になると熱を込めて話す癖がある。それがまさに今っていう訳だ。まったく。面倒な仕事にも熱を込めて頂きたいものだ。

 ──エターナルアースプロジェクト

 ストライクファミリーがまだベンチャー企業だった頃からある事業の一つだ。インターネットが普及した頃、地球上のありとあらゆる場所を衛星写真で撮影し巨大な地図を作った企業があった。その地図から着想を得た我々の企業は地球を丸ごと電脳データにする事を思いつき実行に移した。

 SFチックに言うならばパラレルワールドをスーパーコンピューター上に作成し、電脳データの中で人というインスタンスが生活を行っている。そして最終的には──。

「大葉さん、このプロジェクトが最終に目指している場所って」

「地球のバックアップだ」

 ──そう。このエターナルアースのプロジェクトの最終的な目標は、地球をバックアップする事なのだ。エターナルアースプロジェクトのデータセンターは月にある。月にバックアップを置いておき、地球が滅亡したとしても電脳データとして我々の肉体はパラレルワールドに転送される仕組みだ。

「だから世界中の人間にチップを埋め込んだですね!」

「その通りだ。月のデータセンターがその人間が地球に存在している事を学習させるためにな」

「ヒャッハー! 夢がありますね!」

 軒はキャッキャッと笑いながらホログラフィーPCを叩いた。

「出来れば地球が滅亡しないといいんだけどな。エターナルアースに意識を持って行かれたら生きてるのか死んでんのか分からねぇだろ」

「えーそうですかぁ? エターナルアースにもミライナ埋め込まれてるんでしょう? ミライナがきっと未来をデザインしてくれますよ!」

「あのなぁ。あんまり楽観的に捉えてると──」

 その瞬間、エマージェンシーコールがけたたましく鳴り響いた。

「致命的なエラーが発生しました。ミライナからの警告です!」

 作業を取り仕切っていた部下が叫ぶ。私はすぐさまデスクに戻って、エラーコードを確認した。

「おい! 二百五行目のプログラムがこけてるぞ。誰だここを書いたやつは…!」

「わっ私ですぅ…」

「のぉきぃ! お前な!」

 今日も私たちは生きている。

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