第28話 私の幼馴染が嘘つきかもしれない



 もう頭の中がごちゃごちゃだった。

 気づいたら、私は全力で走っていた。

 あの時、咄嗟に突き飛ばした時に見えたしょーくんのあの顔を、私は忘れられなかった。

 私に突き飛ばされたことも分かってなくて、少し時間が掛かって、やっと私に拒絶されたことをわかったしょーくんの悲しそうな顔が、私の胸を締め付けた。

 しょーくんを悲しませたくなかった。でも、ああでもしないと私はどうにかなりそうだった。

 あの場所であれ以上しょーくんと一緒に居ると、もう私の心の中に生まれたこの気持ちを誤魔化しきれなくなりそうだった。


 私も、しょーくんを信じたかった。


 だけど考えても考えても、何度も考えても、私は信じられなかった。しょーくんを信じたくても、信じられない気持ちの方が大きくなってた。

 なんでしょーくんが遠野さんの子供の頃の話を知ってるのかを考えた瞬間、もう私の心はしょーくんを疑っていたんだと思う。


 もしかしたら、本当に遠野さんはしょーくんの幼馴染なんじゃないかって。私としてたあの約束も、実は私じゃなくて遠野さんとしてたかもって……疑う気持ちが強くなっていた。

 私と遠野さんの二人と約束してたってこともあり得るけど、それでも私以外の女の子と約束してたことがもし本当だったらって考えただけで、もうあの場所に居たくなかった。



 どうして遠野さんの子供の頃の話を知ってたの?

 なんで説明してくれなかったの?

 なんで誤魔化そうとしたの?

 そんな言葉だけで、私が信じると思ってたの?



 そんな考えがたくさん出てきて、頭の中がごちゃごちゃになって、だから私はしょーくんを突き飛ばして走っていた。


 学校まで必死に走る。すごく息が苦しくて辛いけど、少しでもしょーくんから離れたかったから無理をしてでも走った。




「はぁ……! はぁ……!」




 必死に走りながら、私はしょーくんを疑おうとしてるこの気持ちが勘違いだと自分に言い聞かせていた。


 私以外の幼馴染がいる話なんて、しょーくんの家族から一度も聞いてない。だから遠野さんは、しょーくんの幼馴染じゃない。

 昔にしょーくんのアルバムを見た時も、遠野さんみたいな女の子が写っている写真なんて一枚もなかった。しょーくんの仲の良い女の子は、私しかいない。だから大丈夫。

 遠野さんは絶対に嘘をついている。絶対に、あの子はしょーくんの幼馴染なんかじゃない。

 そうやって色々なことを考えて走って、足と息が限界になるまで走った。




「すぅ……はぁ! すぅ……はぁ!  




 そうして気がつくと、私の足は止まってた。

 膝に足を添えて、倒れそうになる身体を支えながら荒くなった息を整えようと必死に呼吸する。

 汗がたくさん出でる。こんなになるまで走ったのはいつ振りだったか、分からなかった。

 長い時間が掛かって、少しずつ息が整う。ごちゃごちゃになってた頭が少しずつ収まると、私の頭は考えたくないことを無意識に考えてた。


 遠野さん、綺麗だもんね。しょーくんが私よりも気になるのも、わかるかも。


 遠野さんは女の子の私から見ても、綺麗で可愛い女の子だった。しょーくんも年頃の男の子だから、私から遠野さんに目移りするかもって不安は当然あった。

 あーちゃんが結構前に言っていた。男はみんな狼だって。しょーくんは私以外の女の子に興味ないって言ってくれてたけど、それでもほんの少しだけ不安だった。もしかしたら取られるかもって。

 だから少し強引にしょーくんのお風呂に入ったりして、いつも以上に気を引こうとした。でもそんなことしなくても、しょーくんは私のことが好きって言ってくれた時はすごく嬉しかった。

 あの時のしょーくん、恥ずかしがって可愛かったなぁ……




「うっ……!」




 そう思った瞬間、私はその場で泣きそうになった。

 私の周りには人はいなかった。学校までもう少しだけど、もう歩くすら起きなかった。

 ごちゃごちゃだった頭が落ち着いたけど。気持ちの整理ができなくて、心がぐちゃぐちゃになる。

 本当に泣いちゃいそうだ。蹲って、人目を気にしないで泣きたくなる。

 視界がぼんやりとしてきた。そんな時だった。




「ちょっと椎名っ! どうしたのよっ!」




 私の後ろから、私を呼ぶ声が聞こえた。

 私が振り向くと、そこには必死に私に向かって走るあーちゃんがいた。




「……あーちゃん」

「はぁ……! はぁ……! なんでそんな顔して走ってのよ⁉︎ 一緒にいるはずの勝也はどうしたの⁉︎ 何かあったんでしょ! 早く私に言いなさい!」」




 私の前で息を荒くするあーちゃんが大きい声で叫んでくれた。

 いつもあーちゃんは私を心配してくれる。しょーくんといつも喧嘩してるけど、私としょーくんを誰よりも心配してくれてる、私の大好きな友達。

 そんなあーちゃんの声を聞くと、不安で抑え込んでいた気持ちが抑えきれなかった。

 気がつくと、私はあーちゃんに抱き着いていた。




「ちょっと、抱き着くのやめなさい。椎名……多分、汗くさいわよ。私」

「私もだから大丈夫」




 そう言って、私があーちゃんを強く抱きしめる。

 あーちゃんはまるで子供をあやすみたいに、私の背中を優しく叩いてくれた。




「……何があったのか、正直に言ってみなさい」

「しょーくんと喧嘩した」

「それ……普通の喧嘩じゃないわね?」




 あーちゃんの声を聞いて、私は頷いた。

 そんな私に、あーちゃんはずっと私の背中をポンポンって叩いてくれた。




「良いわ。なら話しましょう。学校、遅刻するけど良いわよね?」




 抱き着く私の肩を掴んで、そっとあーちゃんが私から離れた。

 多分、今の私の顔って酷い顔してたんだと思う。私の顔を見たあーちゃんが目を大きくしてた。

 私の手を、あーちゃんが握る。

 小さくて、でも安心するその手を、私もそっと握り返した。






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じゃんけんが勝てない幼馴染のせいで、俺には恋人ができない 青葉久 @aoba_hisa

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