第四十四話「騎士の使命」



ジンの命令により帝国首都へ駆り出されたアーサーが向かった先には帝国の国民が集まって何かを囲っていた。


囲まれていたのは…騎士たち


しかも、この国の騎士ではない。

鎧には多種族共生国家の紋章ともう一つ紋章が描かれていた。


騎士たちは何もせずに立っている。帝国の国民たちはその騎士たちに罵詈雑言を放っている。しかし、騎士たちは不動の姿勢を保ったままだ。石や物を投げられても動かない。


アーサーは人混みをかき分け騎士たちの前に出る。


すると、今まで何をされても黙っていた先頭に立つ隊長格と思われる顔に大きな傷を持つ老騎士が口を開いた。


「あなたは帝国の騎士か?」

それはおそらくアーサーに向けて言ったのだろうアーサーは警戒しつつ答える。


「いや、私は始帝国の騎士である。始帝国は帝国と相互支援協定を結んだ。現在帝国首都の危機を救うため行動している」


「そうであったか…」

すると老騎士は何かを決意しながら話し出す。


「では、あなたに頼みがある。我が名はドルフ。今は亡き五老公ゲーメ様直轄騎士団の団長を務めさせてもらっている。この私と一対一の真剣勝負をお願いしたい」


「なぜ?」

当然アーサーは疑問を口にした。


「私も限界が近いため簡潔に言わせてもらう。私達は天使によって思考を操られており、自分たちに恨みのある者達を殺すように誘導されている。だから、私と真剣勝負をして、私を殺して欲しい」


「いくつか質問してもよろしいですか?」

「手短に頼む」


アーサーは三つの疑問をドルフへ聞いた。


「まず、あなたを殺してもあなたの部下が暴れるのでわ?」

「それは大丈夫だ、私の仲間達は私の命令なく行動しない。そして、私を殺せば彼らは解放される」


「では次に、なぜあなた方は帝国の国民達に虐げられてるのですか?」

「私が自らの意識を保てるようになったのが先ほどからだからだ。おそらく、その前に国民達を襲っていたのだろう。だが、全ての罪は私が背負う。私の仲間は私の命令を聞いていただけなのだから」


ドルフは自らの死によって全ての罪を背負う覚悟を決めた目をしていた。


「では最後に、なぜあなた方の洗脳は緩かったのですか?」

「天使にとっては遊びだからじゃないか?これは私の予測でしかないが…」

「そうですか…わかりました。あなたの思い受け取りましょう。遅くなりましたが、我が名はアーサー。始皇帝ファウスト様を守護する者なり」


そして、アーサーは剣を抜く。


「感謝する、アーサー殿。最後にあなたのような強者と戦えてよかった」


そして、ドルフも剣を抜き中段に構える。


2人は剣を構え、見合う。


1秒が長く感じる世界で2人は幾千もの戦いを予測する。2人が強者であるからこそ、戦いは一瞬で終わる。そんな時ドルフは昔のことを思い出していた。



         *



あれはまだ私が若い頃の話だ。

私はこの頃すでに共生国家の五老公の1つであるゲーメ家の騎士をしていた。若くして騎士団のエースと呼ばれており団長も力を認めるほどだった。だからか、私は自分の力を信じて傲慢になっていた。今となっては恥ずかしいばかりだ。


そして、とある日帝国によりゲーメ家の統治する一つの都市が侵攻を受けることとなり、当時の帝国は他国の都市を攻め落とした際暴虐の限りを尽くすという噂を聞き、民を守るため私を含む騎士団はその都市へ向かった。


しかし、我々が都市についた頃に帝国が翌日この都市に到着するという情報があった。それに、情報の中にあった帝国戦力と比べるとこちらは圧倒的に数が少なかった。我々だけでなら逃げられるが、都市の民たちは逃げられない。


そのため、騎士団の精鋭は都市で帝国の気を引く殿しんがりとなり。その間少しでも遠くに民が逃げられるようにするということになった。


当然、私もその殿しんがりとして都市に残った。



         *



共生国家ゲーメ領、とある都市。


ドルフ達騎士団は城門の前に陣取り、門に入ってくる限られた敵を潰していく作戦に出た。


「ガハハハ!これからくる帝国の屑たちも俺様に任せれば木っ端微塵よ!」


と若きドルフは自信満々に声を上げた。


「おい!ドルフ気を抜くな、敵の数は圧倒的なのだぞ」

ドルフを注意したのはゲーメ家直属騎士団のダークス騎士団長だった。


「何を言う騎士団長?我ら騎士団は無敗を誇る最強の騎士団ではないか!」


そう、この頃のゲーメ家直属騎士団は過去最強であった。周辺国家でも類を見ない平均水準であり恐れられていたのだ。それに、ダークス騎士団長は当時の五英傑と同等かそれ以上とも言われていた。そのためこの頃のゲーメ家は強い発言力があった。


「今回はそれだけで済む話では無い。我々は民を逃すため敵を引きつけなければならないのだ。勝てるのが最も良い結果ではあるが今回はそう簡単にはいかん。帝国の数もそうだが、不穏な噂も耳にしている。十分に気をつけろ」


「わかったわかった、わかりましたよ騎士団長」


ドルフの適当な返事にダークス騎士団長は呆れたようにため息を吐いた。


すると…


「ダークス騎士団長!敵軍を発見!およそ10分後接敵の可能性大!」


と城壁の上から辺りを監視していた騎士が大きな声で報告する。


「よしお前達!準備はいいか?我らの忠義を!我らの使命を!果たす時が来たのだ!」


「「「うぉおおおおお!!!」」」


士気が高まる。ドルフは自分が一番敵を倒すと昂っていた。


そして…戦いの幕が降りた。



          *



「前に出過ぎるな!出てきた敵を潰していけ!」

ダークス騎士団長の命令が戦場に響く。


驚くことに騎士団長ダークス率いるゲーメ家直属騎士団は帝国の攻勢を抑えていた。


やはり、一人一人の練度が桁違いだったのだ。それに地理的な面もある。城門という限られた場所で戦っているので城門前の敵だけを倒せばいいのだ。


これは、城壁の上で登ってくる敵を抑えている騎士がいるという要因と帝国があえて回り込まないという要因があったから耐えることができていた。


しかし…それほど簡単にはいかなかった。




          *



「ハーハッハ!くらえ俺様が相手だ!」

ドルフが戦線を飛び出し横一閃に剣を薙ぐと十数人の帝国騎士が吹き飛ぶ。


「強者はおらんのか?雑魚騎士など相手にもならん!」


「仲間を置いて戦線を離れるな!」

飛び出したドルフへダークス騎士団長が近づき叫んだ。


「足手纏いはいらんわ!」

再びドルフが剣を振るう敵の騎士がバタバタと倒れていく。すると、帝国騎士が下がっていく。


「なんだ?」

ダークス騎士団長が警戒していると、帝国騎士の中から一人の少年が現れた。黒髪黒目、帝国の鎧は着ておらず白い服を着ていた。

誰が見ても、ただの少年だがドルフたち騎士団は違かった。明らかな強者の雰囲気。


帝国騎士と比べても明らかに強い気配を纏っていた。


ダークスたちは不用意に近づかず警戒をしていた。一人を除いて。


「俺様の獲物だぁ!!!」

ドルフが剣を構え飛び出す。

「待て!馬鹿者!」

ダークスの叫ぶがドルフは止まらない。

ドルフの剣が振り下ろされた。


ガキィィイイイイイン


しかし、ドルフの剣は少年の足元から伸びた影のようなもので防がれる。


「なに!」

少年の影は鋭利な刃へと変化しドルフに迫る

ドルフは驚きで動くのが遅れてしまい顔に傷を負ってしまう


「うっ!」

ドルフは後ろへ飛び退いて倒れる。


「ドルフ!」

ダークス騎士団長が叫んだ。


「騎士団長!まだ来ます!」

すると、門にいた騎士の中から黒髪の少年と同じくらいの白い服を着た少年少女が複数人現れた。


この者たちも黒髪の少年のような魔術のようなものを使い攻撃してきた。


精鋭揃いの騎士団も防ぐのがやっとだった。


「団長!ここはもう無理です!」


(皆の消耗も激しい。攻めに出ることもできない。これだけ、相手を引き寄せれば民も逃げられただろう。あとは仲間を逃すだけだ)


「ここはもう良い!退却だ!ドルフは私に任せろ!」


ダークス騎士団長は自らが使う特注の盾を取り出した。その盾はダークスが取り出すと展開され元の大きさより大きくなる。正面からダークスの体を隠すほど大きな盾だ。


そして、その盾を左手で操り敵の攻撃を防ぎ敵を吹き飛ばす。それに、右手では刀身が2メートルを超える大剣を軽々と振るう。さらに、炎魔術と風魔術をつかい突進力を持つ攻撃を扱う。ドルフなど比にならない人数の敵が吹き飛ぶ。しかし、敵が多くてなかなかドルフへと近づけない。



スタスタと黒髪の少年が倒れているドルフへと近づき足で踏みつけ体を地面に押さえつけた。

ドルフほどの力の持ち主でも振り払えない。


そして、少年の影が再び鋭利な刃へと変化しドルフへ向けられたその時…


「私の部下から離れろぉ!」

ダークスの大剣が少年を横薙ぎに捉えるが寸前のところで影で防がれ少年が飛ぶ。しかし少年は影をクッションのように使い遠くに飛ぶのを防ぎ、すぐさまダークスへと影の刃振るう。


当然ダークスは盾で防ぐが…


バリィィィイイイン


鋼鉄をも防ぐ盾が容易く砕けた。


「なに!」


そして砕けた盾の死角から影の刃が


ザシュッ


「うっ!くそっ!」


ダークスは大剣を素早く短く持ち振るう

少年は後ろに飛び退き避けた。


後ろにいたドルフはすぐに立ち上がった。

「余計な真似を‥」

ドルフは悔しげに声を漏らす。


「減らず口を叩くな。これ以上ここにいたら分断される。私たちも急いでここから離れるぞ、私の背後についてこい」


ダークスの魔術を使い素早く二人は退却する。


黒髪の少年は後を追おうとするが。


「49番もう良い!あとは私たちがやる。あのダークスを仕留める良い機会だ。トドメは私がさす」

司令官のような者が少年に命令をする。


「他のお前らもだ!さっさと護送馬車に戻れ」


他の少年少女も命令のまま下がっていった。



          *



ドルフたちが戦っていた都市は元々小国の首都であった。共生国家が出来る過程で無くなったのである。そして、その小国の王族の末裔が現在のゲーメ家なのだ。


当然この都市は元々小国の首都だったのだ。当然小さいながらも城があり、逃げるための非常経路もある。その経路は都市から離れた森へと繋がっている。


それを使い騎士団たちは逃げていた。


それを使うため、ドルフとダークスも城へと逃げ延びた。


城に入るとそこは天井の広い広場だった。

城の大扉をドルフが閉める。


「扉は長くは保たんだろう」

ダークスの言う通りで、帝国騎士は近くに迫っている。


「ドルフ…お前は逃げろ。通路の場所も知っているだろう。私が奴らを食い止める」


するとドルフは笑って言い返す。


「ハッ!何を言ってる!手柄を独り占めにして、またしても名声を得ようとしてるな!それは俺様が許さん。さぁ!一緒に逃げるぞ」


そう言いながらドルフはダークスの手を取ろうとする。


「ドルフ!」


ドルフはビクリと驚く。


「私が居ては逃げるのが厳しくなる」


ドルフの視線はダークスが手で抑える場所へと動く。ダークスの鎧の横腹には大きな穴が開き血がドクドクと流れる。


「だから、私はここで残る」

「し…しかし…」


ダークスは鎧のヘルムを取る、額には汗がびっしょりとくっついていた。ダークスは汗を拭う。


「だが…それでは団…」

ドルフは戸惑い悩む


「ドルフ二等騎士!!!………お前は騎士団でゲーメ家に忠誠を誓い。民と…仲間を守るという使命を背負った我が騎士団が誇る騎士であろう。お前にはまだ、守らなければならない者がいる。その事を決して忘れるな」


ダークスが剣を胸の前で持ち騎士の誓いの構えを取る。


それは、ダークスが自分の命と引き換えに騎士団全員を守ると誓おうというのだ。

当然ドルフは動揺するし困惑する。


ドスン!!

帝国騎士が城の大扉を破ろうとする。


「だが………しかし……いや…置き去りになどできん!」

「仲間がお前を待っている」


ダークスは決意をした強き瞳でドルフの目を見て言う。


「…………………………わかった」

ドルフの表情が変わる。自分の使命を背負い。ダークスの思いも背負い。強き瞳でダークスの目を見返す。


そして、ダークスの構えに応えるように騎士の誓いをたてた。


二人は最後に強く握手を交わす。


「我らの忠義に」

ダークスが最後にドルフへとかけた言葉だ。

それにドルフは答えた。


「我らの使命に…栄光を……またどこかで会おう友よ」


そして、ドルフは自分の剣をダークスへ渡してその場を去った。その頬には涙が流れていた。


「ふ…またどこかでか……それに我が友とは、あのドルフが大きく出たものよ!」

ダークスは笑う。騎士の別れに涙など似合わないかのように笑う。


ドスン


帝国騎士が大扉を開けようとする音が響く。


「あの小僧だったドルフも成長したものだ。まさかあれほど強くなるとはな」


ドスン


「別れなどこれからまだあるだろうに、あの程度で泣いていたらこれからが大変だな!」

ダークスは再び笑う


ドスン


「まぁいつかは世代交代が来ていたのだろう。それが少し早かっただけだ。あいつなら私よりも強くなれるだろうからな。それを見れなかったのが少し悲しくはあるか」


ドスン


「それに私には家族がいないからな悲しむ者も少ない。あいつに恋人が出来た時に自慢されたのは少しムカついたが。それも良い思い出か…」


ドスン!ドスン!ドスゥゥウウウウン!

扉が壊され砂埃が舞う。


「小言もここまでか…また会おうと言われてしまったからな。最後まで足掻かせてもらおう」


ダークスはヘルムを被り、2本の剣を構える。


「私はゲーメ家騎士団長ダークス!祖国の敵を!滅ぼす者なり!!!」


ゲーメは2本の剣を振るい帝国騎士へ突貫した。


その後、ダークスの貢献により。ダークスを除いた騎士団全員が生還。民の被害もゼロに抑える事ができた。その後、ドルフは幾多の戦場を生き抜き騎士団長となった。



そして、そんなドルフの最後の戦いが終わろうとしていた。



          *



剣を構えていたドルフはアーサーとの戦いを予測しながら走馬灯のように昔のことを思い出していた。


(『なぜ、あなたは自分を蔑ろにして、仲間を守るのですか』か…妻には本当に辛い思いをさせたな。しかし、本当に感謝している。あの時は答えられなかったが……これが我が使命なのだ。必ず果たさなければならない。そして、それもこれが最後だ)


ドルフは最後の戦いに関係のない思案を終え目の前のアーサーに集中する。


二人の剣は微動だにしない。構えてから長い一瞬が終わる。


ドルフの剣が揺れる。それを合図に二人の剣が交差した。


一瞬の出来事。その場にいた者達は目で追う事ができない。


アーサーが剣を鞘にしまう、ら


「アーサー殿…みご…とだ…」

ドルフの鎧に斜めの剣撃が入り血が舞い仰向けに倒れた。


「…私の妻に…すまなかった。愛していると伝えてください…」


ドルフは最後の力を振り絞り言葉を紡ぐ


「あなたは素晴らしい騎士だった。あなたの言葉も必ずあなたの仲間が伝えるでしょう」


「先に逝ってしまった者たちと酒でも飲んで待っている…皆、世話になったな…」


この日この場所で


エンファ多種族共生国家


ゲーメ家直属騎士団・団長ドルフ


主人に忠誠を誓い、仲間と民を守る使命を持った、各国に名を轟かしていた騎士が享年69歳で亡くなった。


彼は笑顔のまま天へと旅立った。


そして、残されたゲーメ家直属騎士団の騎士たちは騎士団長が亡くなっても不動の姿勢を保っている。しかし、彼らの足元の地面は大雨が降ったように濡れていた。

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