四十三話「抗えぬ言葉」
エンファ多種族共生国家
エルフ・獣人・人間・ドワーフなど多種多様な国民が住む国
種族関係なく受け入れる国の特性により国の人口も大国の中で一二を争う国だ。
当然全体数が多い国だが。
この国で1番の魔術師は誰だ。と国民に聞いたとしよう。すると、国民は皆こう答える
「ディエル・ド・バイエンが一番だ」と
ディエル・ド・バイエン
人間の魔術師で魔術により寿命という枷から逸脱し、魔術を研究して250年。すでに年齢も300を超えていると思われる。
しかし、年齢は300を超えていても実力は五英傑のランカン以上だとも言われている。
そして、彼は五英傑とは違い国ではなくウェストンの家系に使える魔術師だ。当然この度の襲撃にも参加していた。
*
「ハハハハ!!愉快愉快!」
ディエルの魔術が飛びまた家屋が燃え上がる。家屋の中で住民の叫び声が上がる。喉が焼き切れてすぐに声はなくなっていく。
「天使様のおかげで儂の魔素量が桁違いに溢れておる!これは今まで使えてなかった魔術の実験じゃ!第五階梯火焔蝶!」
大きな炎の蝶が羽ばたき上空で四散する。バラバラになった蝶はまた小さな炎の蝶となり家屋に降り注ぐ。そして、落ちた地点で大きな爆発を起こした。
そのまま炎は他の家屋に燃え移っていく。ディエルの周辺はすでに火の海だ。
「おっと、少しやりすぎたか?まぁよい、まだまだやりたい魔術が残ってるのだ。やらなければ損という…」
『消えなさい』
ディエルが火の海となっていた街中を歩いていると突然澄んだ声が響いた。その瞬間町中を覆っていた炎が掻き消え焦土とかした街が露わとなる。
「なんじゃ?」
ディエルは突然聞こえた声よりも消えた炎が気になり辺りを見渡す。
すると、正面に先ほどまでいなかったはずの燃えるような赤髪をたなびかせた都市長のルインが立っていた。
「お主いつからそこにいた?」
ディエルは突然現れたルインを警戒しながらか無詠唱で魔術の準備をする。準備をするのは第五階梯・竜炎槍という魔術で、使える者が少ない第五階梯の魔術だ。
「炎を消したのはお主か?」
ルインが最初の質問に答えず無言で辺りを見渡しているので、再びディエルは話しかける。
しかし、ルインは反応をしない。
「炎を消したのはお主かと聞いている!」
再度、大声で問うがルインに反応はない、いまだに周りを見渡しているだけだ。
これにはディエルも怒りを露わにし用意していた魔術を放つため構えた。
「共生国家最強と呼ばれるこの儂を無視するなぁ!!」
と叫ぶとともに第五階梯・竜炎槍を放つ。ディエルの手に術式が浮かび上がり。
竜のような炎が槍のように高速でルインへと放たれた。
本来ならばこの魔術は対象を貫き炎で飲み込むという魔法だ。炎は従来の炎系魔術と比べ温度は十数倍へと跳ね上がっている。魔術が体を掠めただけで触れた部分から燃え広がりやがて全身を燃やし尽くす。徐々に体が焼かれ、すぐには死ねない苦痛を与える凶悪な魔術なのだ。
しかし、相手が始帝国に15人しかいない都市長の1人であるルインだったのが悪かった。
放たれた魔術がルインに当たりそうになったその時、
『反転』
ルインのその一言で魔術は反対のディエルへと方向を変えて飛んでいった。
「何!?対魔障へ…」
ドォォオオオオン!!!
大きな音をたてて魔術がディエルに直撃し大きく燃え上がった。
その衝撃で砂塵が舞いディエルがどうなったか伺い知れない。
しかし、砂塵が晴れるとそこには左手を失ってもなお立っているボロボロのディエルがいた。
「おや?対魔術障壁で生き延びたのか」
対魔術障壁はどの魔術属性にも属さない魔術で発動速度が速い利点があるが防御能力が低いという欠点がある。
「お…お主!何をした!?」
ディエルはルインが何をしたか理解できずに叫んだ。
「ただ、反転と言っただけだが?」
「そんな事どうでも良い!何をしたかと言っているのだ!」
「だから何をしたか言っているのだがな。このようなことも理解できず冷静に話せないのか、共生国家最強の魔術師と聞いていたが、期待外れだな」
期待外れという言葉にディエルはさらに怒りを露わにした。
「この儂が期待外れだと!?250年共生国家を支えてきた最強の魔術師であるこの儂を!?きたいはずれだといったなぁぁぁあ!!!」
ディエルは身体中の魔素を放出し新しい魔術の準備をする。
その魔術は第六階梯・火焔領域というディエルが長年研究していた魔術で、現在使える者はいないとされている魔術だ。
この魔術は発動とともに周辺を燃やし尽くす巨大な火柱を作り出し、その後も一ヶ月炎は燃え続けるという魔術だ。
術式を組み立てるディエルは魔術の負荷により目が充血し血涙を流す。
「この儂が最強の魔術師なのだぁぁぁあああ!!!!」
術式が完成し魔術が発動しようとし地面が赤く燃えた瞬間
『消えなさい』
術式が掻き消え、赤く燃えていた地面の炎も霧散した。
「な…」
ディエルは何が起こったか理解できなかった。術式は完璧、発動していれば辺り一面を覆い尽くす火柱が起こっていたはずだった。
しかし何も起きていない。
ディエルの思考は起こった事象に追いついてなかった。自分の中の魔術師としてのプライドが崩れかけるが心の中で許さない自分が叫んだ「自分が最強だ」と。ディエルはルインへとヤケクソに魔術を放つ。
「なんなのだおまえはぁぁあああ!!」
『消えなさい』
しかし、またしても魔術が消える。
『跪け』
ディエルは感じたことない謎の力で無理矢理跪かせられる。
「なんだ…これは…体が動かないだと…」
すると、コツコツとヒールの音をたてながらルインがディエルのすぐ目の前まで歩いてきた。
「あなた…帝国の民を魔術の実験とか言って燃やして楽しんでたわよね?私は始帝国の都市長だから守る義理はないのだけど…私達の国と帝国は協定を結んだ。その協定に則りあなたを排除させてもらうわ。それに、あの方からの命令だもの動くのは当然よね?
おっと…口調には気をつけていたのだけど、まぁ今は1人だからいいでしょう」
ルインは普段固い口調で話している。それは一見クールに見えるかもしれないが、それはジンや都市長の前で本性を隠しているだけにすぎない。ルインの本性は傲岸不遜、残虐非道で相手を痛めつけることに快楽を感じる。普段はジンに嫌われたくないために隠しているだけだ。(※ちなみにジンはONRY. WORLD時代に設定ですでにルインの本性は知っている。都市長の前で隠す理由は都市長からジンに漏れないようにするためである)
ルインはディエルなど気にせず1人で話す。
「それに口調が戻るくらい興奮しててもしょうがないわよね?私が自由にできるモノをいただけたのだから。私もこの世界での実験をさせてもらいましょうか」
ディエルはルインが何を言ってるか理解できない。いや、薄々理解はしていた数百年生きてきたディエルはルインが何をしようとしているか予想してしまった。しかし、頭がそれを否定する。初めてディエルは恐怖で体が震える。
すると、ルインの表情が徐々に変わる。高揚しているのか顔は赤く染まり、妖艶な笑みを浮かべている。しかし、ディエルはさらに恐怖を大きなものにした。
「あなたも住民で実験していたもの、私もあなたで実験させてもらうわ」
ディエルはガタガタ震えが止まらない。
『弾けなさい』
バシャン!
水風船が割れたような音がした。
何が起きたのか、ディエルが辺りを見渡すと
唯一残っていた右腕が破裂して肉片すら残さずそこに血の爆発痕を残した。
肩からドクドクと血が流れる。
「おぉぉおおおお!!!うでがぁああ!わしのうでがぁぁぁあああ!!!!」
「うるさいわね、『黙りなさい』」
するとディエルの口が動かない、喋ることができない。
「すぐ死なれても困るわね。『止まりなさい』」
すると血が止まった。
「安心しなさい。すぐには死なせないわ。せっかく私の能力をしっかり実験できるんだもの、あなたには最後まで付き合ってもらうわよ」
ディエルの顔が汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。命乞いの言葉も助けを求める言葉も出せない。
その後も実験という名の拷問をディエルは受け続けた。地面が動き出し腕をすりつぶしたり、眼球が突然爆発したり、腹部に大きな穴を開けられたり、そんな中急に全てが再生し同じことを繰り返されたりと、どんなに痛めつけられても死ねない地獄を味わった。
その後、その場にはディエルの肉片すら残さず大きな血溜まりだけが残っていた。
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