第三十八話「落ちる共生国家」


始帝国との戦いの後、共生国家の状況はどんどん悪くなっていった。


五老公のアードは戦死、スエードは戦争の責任を負って廃嫡。そして、1人はランカンと共に亡命している。残ったのは2人。

戦争を進めようとするウェストン派閥

戦争をやめ友好を進めたい穏健派のゲーメ派閥が対立を深めていた。


他にも沢山の国民が亡命して減ってしまった。そして、元老院の議員も減った。

それに、今回の戦争を始めた元老院に国民は不満持っており。共生国家の歴史上で最も危機的状況となっていた。



          *



「だからいっておろう!まだ我々は負けておらんのだ!!」

ウェストンが激昂して叫ぶ。


ここは、五老公たちが話し合いをするための特別な部屋で魔術によって中の音は漏れず、外からの魔術も守れる部屋だった。


「落ち着け、ウェストン。負けてないと言うが、こちらはたくさんの兵を失ったのだ。どうやって戦う?」

とウェストンを落ち着けたのは五老公の一人でクマの獣人であるゲーメだった。

ゲーメは既にこの国は始帝国には勝てないと理解し、より民が幸せでいられるようにと模索していた。

しかし…

「だったら民を徴兵すれば良いではないか!兵役があった者や医者などの技能を持った者を徴兵すれば良い!少なければ他の者も集めればそれなりの数になるではないか」

と五老公の一人で獅子の獣人であるウェストンが戦争を推し進めており中々ゲーメの思うように進まないのだ。


「それでは、民の不満が爆発するぞ。ここで民が暴徒とかしたら我々では止めることはできん」

とゲーメはウェストンを落ち着けようとする。


「だが!我が国は帝国に続いて始帝国という二つの新興国家に苦渋を飲まされているのだぞ!大国エンファの名が泣くわ!!」

「だからウェストンまず落ち着…」

「そうですわね、負けたままなど悔しいではないですか。私はウェストン様に賛成ですね」

とゲーメのを遮り話に入ってきた者がいた。

その者はローブを着た者で顔はフードで窺い知ることができない。

「だれだ!!」

ゲーメが大声で誰何する。そして、机の下のボタンを押した。


この部屋は魔術によって中な音は外に聞こえなくなっている。そのため何かあった時ように衛兵を呼べるボタンが机の下にあるというわけだ。


「ゲーメ様、押しても誰もきませんわ。この部屋は魔術で異空間に隔離いたしました」

「なんだと!?お…」

と何も喋らないウェストンにゲーメが叫ぼうとしたその時


「落ち着けゲーメ、天使様の前だぞ」

「なに?天使だと…」

ウェストンはさもいるのが当然かのように落ち着いて話し出す。


「この方は大天使のユダ様だ。私たちに力をくださる方だ」

「そうね、ウェストン様にはもう一度力を与えましょうか」

「ありがたき幸せ」

ユダはローブを脱いだ。そこにいたのは妖艶な美を放つ美しい女性だった。真っ白な翼を生やし天使の輪を持っていた。

そして、ユダは手をウェストンにかざす。

すると、ウェストンの体が薄く光る。

ウェストンの目は虚になり、呆けている。それは精神操作をされた者の特徴に酷似していた。


そこで、ゲーメはウェストンが力を与えられながらユダに操られていると悟った。そもそも、ウェストンがおかしくなったのは始帝国との戦いの後からだった。元々ウェストンはゲーメと共に始帝国との戦いに反対していた。だが、他の三人が賛成したことにより戦争が始まった。そして、敗戦後にウェストンは五老公の者や死んでいった者のためにと言い出し戦いを続けた。


ウェストンは情に熱い男だが馬鹿ではない。なので、ゲーメとしても違和感を持っていた。


ゲーメとウェストンは幼少期からの友人であり、仲が良かった。そんなウェストンを操るユダにゲーメは怒りが込み上げてきた。


「きさまぁぁああ!!ウェストンを操り負ったなぁあ!!」

いつも、冷静沈着なゲーメが友のことを思って叫んだ。


しかし、その想いは儚く散る


「不敬だぞゲーメ!お前なぞ友ではないわ!」

と支配されたウェストンは己の鉤爪でゲーメをめった斬りにした。ユダによって強化されたウェストンの攻撃にゲーメが反応できるはずもなく。ゲーメの体から血飛沫が舞う。


「ウェストン………と…も…よ…」

ゲーメは最後の言葉を残し力なく倒れた。


「よくやりましたねウェストン」

「ハハッ!ありがたき幸せ!」

ウェストンがユダに跪いた。


「だけれど、真っ向から戦っても勝てる相手ではないのはわかってるわよね?」

「はい!良い作戦がございます」

「ならよかったわ」


こうして、エンファ多種族共生国家は終わりの一歩を踏み出した。仲間の…友の…意志なき裏切りによって。



          *



エンファ多種族共生国家の始まりは五つの部族だった


共生国家のある場所は元々数多の部族が覇権を争う地だった。しかし、それに介入してきたのが国家だったのだ。当然たった一つの部族が国家に勝てるはずもなく。徐々に部族は減っていった。


そんな時、このままではダメだと気付き協力

して国家に対抗しようと動いたのが五つの部族であり、その長たちの子孫が今の五老公なのだ。



          *



数十年前


共生国家の学園にある庭園で一人のクマの獣人の子供が泣いている。


「おい!お前また泣いてるのかよ」

話しかけたのは同い年の獅子の子供の獣人


「ぅう…うぇぇええん!!」

獅子獣人の子供の圧のある言葉でクマ獣人の子供はさらに泣いた。


「泣くんじゃねぇ!」

獅子獣人の子供がクマ獣人の子供の頭にゲンコツを落とした。


「いたっ!な…ななにするんだよぉ」

クマ獣人の子供は頭を押さえる。目尻にはまだ涙が滲んでいた。


「泣いたって変わんないだろ!それに、お前の親父さんは俺の父ちゃんと同じ五老公なんだからお前もしっかりしろ!」

「そんなのできないよぉ」

「うるせぇ!」

「いたっ!」

再び獅子獣人がゲンコツを落とした


「できるできないじゃなくて!やるんだよ!お前は恵まれた環境で生まれたんだ!恵まれない環境で生まれる奴だって、この世にはごまんといるんだぞ!それなら俺たちがそいつらを救ってやらなきゃどうするんだ!俺たちの国の民を助けられるのは俺たちなんだよ!」

と獅子獣人の子供が強く言葉を残した。

その言葉を聞いたクマ獣人の子供は泣き止んでいた。


「ぼ…ぼくにもできるかな?」

「あぁ!できるさ!お前ならできる、俺だって手伝ってやるよ!」


クマ獣人の子供は涙を拭った。

「わかった!僕やってみるよ!」

「よく言った!俺の名前はウェストン!」

「僕はゲーメ」

「よろしくなゲーメ!」

「うん!」


ウェストンに手を引かれてゲーメは立ち上がり一歩を踏み出す。


その後、二人は国のために学び親の仕事と爵位を受け継ぎ、国民のために働いた。国家の闇の部分を覗くこともあったが、諦めずに二人で国をよくしようと奔走した。彼らは五老公という仲間でもあり、共に高め合うライバルであり、最高の友だったのだ。

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