第三十三話「リードの過去」


あたしは母の顔を知らない。


父親とどこかの娼婦との間にできた子で父親からの愛など知らなかった

日常的な暴力など普通で、路地裏のゴミを漁る毎日。あたしなんかが光を望んではいけないと思った。


だがそんな時に妹が生まれた。母親は違うがあたしは初めて愛せる家族を持った。


名前はリース


リースはあたしと違い美しかった。幼いながらまるで満月の夜のような美しい顔立ちをしていた。


そんなリースとあたしは仲が良く。綺麗なリースが活発な笑顔をするのがあたしは好きだった。


どんな時も一緒で「リースはいつかお姉ちゃんと一緒に二人で暮らしていくんだ!」

という一言が廃れたあたしの心をどれだけ癒したのかわからない。


そして、あたしは冒険者になることを決めた。


社会の闇の奥深くで育ったあたしがなれる真っ当な仕事はそれしかなく、そのために闇社会でよく知られていた魔術師に教えを乞うこともした。


そんなある日悲劇は起きた。

魔術を教えてもらい見たくもないクソ親父のいる家に帰った時。リースの姿がなかった。

だが、クソ親父の手元には金貨がたくさん入った麻袋があった。


そうリースは奴隷として売られたのだ。実の父に。


あたしはクソ親父を殺した。その後は殺す前に聞いた奴隷商の元に向かったが、すでにリースはいなかった。


あたしは誓った。リースを探し出し一緒に暮らすのだと…


そのためにはお金が必要だった。魔術の力を使って冒険者となり。裏にも顔が通じる《亡者の鎌》にも入った。Aランクにもなりリースを買い戻せるであろう金額も準備できていた。


そんな矢先、またしてもあたしを悲劇が襲った…



          *



あたしは違法な奴隷売買を行う奴隷商の元にいた。リースの特徴と名前を伝えると、奴隷商は店の奥にあたしを連れて行った。


扉には廃棄場と書かれていた。

あたしの鼓動が早まり、手に汗が滲む。


あたしが連れられた一部屋には人のようなものがあった。


そう、人のような何かだ。


それは、顔のような場所がどれだけ殴られたか分からないぐらい腫れ上がっていた。


身体中があざだらけで変色しており、鞭で打たれたような傷跡が全身に広がっている。

指の何本かは曲がってはいけない方向に曲がっている。コヒューコヒューと息絶え絶えで今にも死んでしまいそうだった。


そんな人とも思えないものを、あたしはリースと認めてしまった。リースの特徴的な頭頂部の白髪から毛先が徐々に黒くなる髪と左肩にある特徴的な紋様のあざは、あたしにも同じ場所にある。


「あぁ…リース…リースなのか?」

あたしはヨタヨタとリースと思われるものに近づき抱き上げる。


「おね…ちゃん………なの?やっ…とあえた…ね」

「リースしっかりして!あたしがあなたを買ったんだ!一緒に暮らそう!」

あたしはすぐさま奴隷商にお金を払い。リースを抱いたまま雨の中の街を走った。リースを雨で濡らさないように優しく抱いて走った。


雨はそれを否定するように冷たく、強く降り続ける。


定宿に戻ったあたしはリースをベットに寝かせた。リースの体は冷え切っている。


「リース!返事をしてくれリース!!」


リースの腫れ上がった目が微かに開く。


「おね…え…ちゃん…あ…りがとう」

ボロボロのリースは満面の笑顔を私に見せた。そして、リードの手を握ろうとした手は力なくベットに落ちた。


「リース?…リース?起きてくれ…起きてくれよ!!」

リードはリースの手を強く握るが反応はない

リースは息をしていなかった。


「なんで…なんでだ…うわぁぁあああ!!」

リードの瞳から大粒の涙が溢れる。それはポタポタとリースの手に儚く落ちて、消えた。


だがリードは諦めなかった。なぜなら、この世界には蘇生魔術が存在するからだ。だが、低い階梯では蘇生される時にリースの体が持たない。そのため、リードは大量の魔素を使用する高階梯の蘇生魔術しかなかった。

そのために、《亡者の鎌》のギルドマスターの作戦に参加したのだ。



          *



(そうだ、あたしはこの作戦で得た魔素でリースを…妹を蘇生しようと思っていたのに。なぜ強者を倒すことに執着してしまったんだ。いつからだ?いつからあたしはそう考えるようになった?)


リードは思考の海に潜る。


(そうだ!あいつが来てからディザドもあたしも、ギルドメンバーもおかしくなったんだ)


倒れていたリードはふと視界に映った人物に驚愕した。


「あいつは…なんでここに」

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