第三十二話「最強の冒険者」


ディザドの戦闘後リーシャとスハラは涙ながらに話をしていた。

「あっ!スハラさん早く結界を解除しましょう!」

「そうだったね、リーシャ頼むよ」

「はい!」


リーシャは疲れているのか少しフラフラした足取りで結界を制御している大きな魔石に向かう。


だが、魔石の影から人影が現れる。


「リードさん!」

「よっ!リーシャ」

片手をあげて気楽にリーシャに声をかけるリード。体は傷だらけだ。


「ゼウスさんと戦ってたんじゃないんですか?」

「あぁ戦ってたさ、コテンパンにやられたけどね」


歩きながら魔石の前に歩くリード


「そこをどいてくださいリードさん」

「なんで、どかなきゃいけないんだい」

「結界を解除しないといけないからです」

「それは無理な話だね」

「なんでですか?邪魔しないでくださいリードさん!」


無理矢理リードを避けて魔石に向かおうとするがリードが割って入る。


「無理なんだよリーシャ」

「なんでですか?」



「あたしが起動したからな」



「え?」

その瞬間魔石から大きな波動が放出される


「安心しな、対象は裏ギルドとあたし以外の《亡者の鎌》のメンバーだよ」

「そういう事じゃないです!たくさんの人が死ぬんですよ!?」

「いいじゃないか犯罪者たちだよ」

「犯罪者でも生きている一人の人間です!」


ネオンテトラ中の裏ギルドのメンバー。そしてギルド《亡者の鎌》の冒険者の体が魔素へと分解される。そこには服しか残らない。

魔素はリードの頭上へと球状に集まっていく。


「リーシャ。あたしは人間を辞め、力を得るぞ」

集まった魔素はリードの元に落ちた。

「リードさん!!!」


落ちた魔素は弾け激しい光を放つ。

リーシャは弾けた衝撃を耐える


現れたリードは先程とは見た目が変わっている。ゼウスと戦った傷は癒え、ゼウスと戦った時のような全身鎧を身に纏っていた。だがその時のものとは形が異なる。背後には二対の翼。一対は純白の輝きを持ち、もう一対は漆黒が光を飲み込んでいた。体も純白と漆黒が入り組んだ模様をしている。

顔は露出され瞳も白と黒のオッドアイ。


それを言葉で表すとすれば…混沌


「すごいぞリーシャ。力が溢れてくる…」


宙に浮いていたリードはゆっくり地面に降りる。

「どうだリーシャ?あたしの強くなった姿は?美しくないか?」


「なんで…なんでこんなことしたんですか!たくさんの人々の命を使って、何をしたかわかってるんですか!?もういいです。私がリードさんを止めます」

「いいぞ、その目だ!その強い瞳を待っていたんだ!止めてみろリーシャ!!」



リードの咆哮が空気を揺らす。そしてリーシャは魔法を唱える


描くドロウ魔法マジックホワイト…」

唱えている途中で魔素が霧散しリーシャが膝をつく。


「そうか、残念だよリーシャ。ディザドの戦いですべてを使ってしまったんだね」

リードは優しげな声でリーシャに微笑んだ。

そして、リーシャはふらっと前に倒れる

リードはリーシャに背を向けて歩き出す


「リーシャは最後だ。これから五大ギルドマスターの会議に行って、世界最強の冒険者・アインを倒してくるんだ。それまで、ゆっくり準備しているんだね」


ふとリードは違和感を覚えるリーシャが倒れた音も気配もしない。

リードは振り返る。


常ならば倒れたはずであろうリーシャは倒れなかった。なぜなら、それが突然現れたからだ。長い睫。整った鼻筋。雪原のような肌。

絹糸のような長い白髪をたなびかせた傾国の美女にリーシャは支えられていた。


「《百花繚龍》ギルドマスターのアイン!?」


リードはいるはずのない者の登場に驚きを隠せない。



「なんでアンタがここにいる!?」

リードは大きな声をあげる。先ほどまでいなかったはずの人物が突然現れたのだ。驚くのも無理はないだろう。



「君はリーシャだったかな?よく耐えてくれたね」

アインジンは無視をするがリードは言い返せなかった。


「アインさん、あの人は少し暴走してるだけなんです。私の大切な友人なんです。殺さないでください」

リーシャはアインジンにただ願った。


「わかった。これほど頑張ってくれた君に免じて、あの者は殺さず倒すとしよう」



「あたしを無視するなぁああ!!」

リードは怒りのままにアインに殴りかかる。


拳は容易く掴まれる。

「無視などしてないさ、君に世界の高みを教えてあげよう」


「やってみろ!!」

リードは飛びのいて魔術を発動する。そこに現れたのは数千を超える岩槍。

それに対するのはアインが異空間から取り出した同じく数千の長剣ロングソード


そして、ぶつかる。


アインは舞のように長剣を操る。


リードは荒ぶる炎のように岩槍を操る。


「なかなかやるじゃないか」

「世界最強のお褒めに預かり光栄だね」


二人は話しながらも激しく攻撃を続ける。


徐々にリードの岩槍が減っていくがアインは変わらず攻撃の手をやめない。


「あたしが押されてるだと!?」

「君の魔術は量だけのようだね」

「くそが!」


リードは石槍を一つに収束させる。

大地神の憤怒ガイア・インディネーション!!!」


数十メートルはあるであろう岩の塊がアインを襲う。

「おもしろい」


アインは操っていた長剣の一本を掴み中段に構え、剣を振る。


「次元断絶」


剣からは空間を断層のようにずらす斬撃が飛び、大きな岩槍を真っ二つにしてリードの鎧だけを破りリードを吹き飛ばした。さらには、結界と魔石も破壊した。


「リードさん!!」

リーシャは心配で叫ぶ。


「大丈夫だ。気絶させただけだからな」


「くそっ…」

リードは悔しくさを吐き出した。


(また負けた。これが最強の冒険者か。あたしは力を得なければならないのに。ん…なんであたしは力を欲していたんだろうか)


リードは力を欲していた。今現在も大量の魔素を得た。

だが満たされていない。


その理由も思い出せていない。



(あぁ…そうだ。妹のためだ…)


リードは思い出した。


ただ一人の妹のことを…

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