第二十六話「影使い」


港街ネオンテトラの南方ではゼウスの部下であるミカエルとアズラエルがギルドメンバーの冒険者数十人と共に《亡者の鎌》、裏ギルドと戦っていた。


「ランクの高いギルドメンバーは前に出ろ!ランクの低いものは後方で高ランクの者のサポートだ!相手は殺す気でくるぞ!気を引き締めろ!」


アズラエルが叫ぶ。声の聞こえた冒険者達は綺麗に隊列を組み連携を取る


ミカエルはアズラエルの隣で微笑みながら立っている。


「姉上、このまま行けば勝てそうですな」

「そうかもしれないけど、気をつけなさい」


ミカエルの言葉がよく分からずアズラエルは首を傾げる。


「何にですか?」

「後ろ」


ミカエルの言葉のあとアズラエルは何かに気づく


「む!」

アズラエルの背後の影がゆらりと動く。


アズラエルは反射的に腕で背後の何かを防ごうとする。


ガキィィィィン!!!


その瞬間、金属同士が強くぶつかったような音がする


背後にはカランビットという特殊なナイフをアズラエルに突き立てる男がいた。


「へぇ〜すごいね。おっさんの腕、何でできてるんだよ。このナイフ鋼鉄も切り裂くのに」

「ふん!」


アズラエルは腕を振って男を吹き飛ばす。

飛ばされた男は空中で体勢を整え着地する。


「おっとっと」


「少しはできるみたいだな」


アズラエルの言葉を聞いた男は肩を竦めて

ため息を吐いた。


「やだなぁ、僕は裏ギルドだけど冒険者組合のランク分けだとSランクに近いんだからね」


「そんなこと関係ないな。弱い奴ほど良く喋る」


「はぁ!?ムカつく〜いいよおっさんやってやるよ」


そして男はナイフを構えて地面スレスレまで体を下げる。

アズラエルも拳を構える。


「拙僧はギルド《百花繚龍》メンバー・Aランクのアズラエルだ」


「あんま名乗りたくないけど…僕は裏ギルド《死者の導き》メンバー・黎春リーチュン


そして、戦いは突然始まった。


黎春リーチュンが体を低くして踏み込んでくる、そしてアズラエルが地面スレスレを走る黎春リーチュンに向けて拳を落とすが体を捻って避けられる。


黎春リーチュンは体を捻って回避した勢いでアズラエルに斬りかかる。ナイフが顔に向けられるが腕で防ぐ。そして黎春リーチュンはカランビットをクルッと持ち替え連続的に攻撃する。


「硬すぎだぞ!おっさん人間かよ!?」


その攻撃は数十回行われ。いくつかは腕で防がれたりするが、そのほとんどは胴体や足に当たっている。だが、体に傷はつかずナイフが弾かれるだけだった。


「次はこちらの番だな」


そして、アズラエルは拳を握りなおして黎春リーチュンの頭めがけて拳を振るう


黎春リーチュンは体を逸らして避ける

拳はブォッと空を切った、


アズラエルは体を逸らした黎春リーチュンに拳を落とした。


黎春リーチュンは後ろに飛んで避ける

拳は地面に落ちてドゴォンと大きな音を立てた。


「やばぁ」

砕けた地面を見て黎春リーチュンは声を漏らした。


「ちょこまかと動くな。当たらんではないか」

「いや!当たったら死ぬから!」


「次で終わりにするぞ」


その言葉と共にアズラエルは足を持ち上げ、勢いよく落とす。地面が砕け、揺れる。


瓦礫が黎春リーチュン目掛けて飛んでいく。瓦礫をスレスレで避けると体勢を崩してしまう。そしてその避けた先にはアズラエルが拳を構えていた。


「あっ…」


「第四階梯・聖拳!」

アズラエルの拳が眩く光る、圧倒的速さを持った拳が振り下ろされる。光が線のように残る。


ドゴォォオオオン!!!


終わった…



かのように思われた


「む!?」


ガギィィン!


拳が当たったと思われたが拳が振るわれた場所には誰もおらず、黎春リーチュンはアズラエルの背後から顔目掛けてナイフを投げていた。アズラエルはギリギリでそれを防いだ。


「何をした?」


「さぁ?そろそろ終わらせてもらうわ」

そう言って黎春リーチュンは手を合わせてから家屋の影を触る。


「第三階梯・シャドウ使者ディスピディア


すると影から小さな人型の影が数十体現れる

現れた影の使者はアズラエルを囲むように並び襲い始める。


アズラエルも応戦するが敵が小さくすばしっこいため、なかなか倒せない。


しかも、黎春リーチュンはアズラエルの影や、影の使者の影から現れアズラエルにナイフの攻撃をする。体に傷がつかないもののダメージは蓄積される---それも微々たるものだが黎春リーチュンには分からない---


徐々に黎春リーチュンの笑顔が増していく。


「おいおいおっさん!もう終わりかな?」


アズラエルは腕で頭を守るように構え動かずにいる。



「鬱陶しい!!邪魔だ!」


アズラエルは叫び、聖気を放って影の使者や黎春リーチュンを吹き飛ばす。


「おっと」

黎春リーチュンは影に潜んで避けるが影の使者達は全員吹き飛ばされる。


そして、黎春リーチュンが家屋の陰から現れる。


「本当に硬いなぁ…あっ!いいこと思いついた!」

黎春リーチュンの笑みがより深くなる。それを見たアズラエルは気持ち悪いもの見る目をした。


黎春リーチュンはポケットから小さな球体を取り出し、思い切りアズラエルの足元に投げる。


パッァァン!!


ものすごい光と音がアズラエルを襲う

「閃光弾か!」


アズラエルの視界は一瞬奪われる。そして視界が戻った時には目の前に黎春リーチュンはいなかった。


「こっちだよ、こっち」


アズラエルは背後から声が聞こえ急いで振り向く。


そこには、アズラエルの姉であるミカエルが陰から伸びた蔦のような物に絡まれ、黎春リーチュンがナイフを首に突きつけていた。


「姉上!!」


アズラエルは焦り、叫んだ。

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