第十七話「北の戦い・断罪ノ聖典第三席次『暗黒福音』エヴァンジール」

神樹の森・北部


魔物の大軍本陣


「遂に南との連絡も途切れました!」

下級悪魔が報告する


「うるせぇ」

ガニングは報告してきた悪魔の頭を掴む。


「ペギャ!」

軽々と悪魔の頭部を握りつぶした。


「落ち着いてください、ガニング様」

ガニングの隣で宥めているのはシーゼと同等の悪魔


上級悪魔・バーディ

スーツを着て眼鏡をつけた好青年の様だが背中からは禍々しい翼が二対生えている


「だがなバーディ。今回の作戦は俺の力を見せること、神樹国家の占領が目的だ。俺の支配する中級以上の悪魔はお前以外全員やられたと思ってもいいだろう」


「ですが相手はその分戦力を分散させていると思われます。このままでも勝てますよ」


ガニングは不安気だが、何か納得する様になり疑問を持たなくなった。


ゾワッ


ガニングとバーディの体が震える

「誰だ!!」


すると、森の中から数人の人影が見えてきた

先頭を歩くのは黒い靄で覆われた男、その隣を歩くのはまっすぐな黒髪と眼帯をつけた白い軍服の様なものを着た女、その後ろには騎士が5人いた。


「おや、気配に気づかないほど馬鹿ではないようですね」

黒い靄に包まれた男から女の様な声が聞こえた。


「何者だ」

「私たちは始帝国が王ジン・ファウスト様の僕、私の名はヴァルシア」

ヴァルシアはバーディの質問に鷹揚に答える。


「始帝国とはなんだ?バーディ」

「この度神樹国家に協力していると言われている国です」

「そうか、それなら邪魔だな。お前らやれ」


そして、ガニングの周りにいる魔物の上位個体達がヴァルシア達に襲いかかる。


「ここは任せます」

「ハッ!」


魔物達の攻撃がヴァルシアに当たる寸前で

騎士達が魔物達の激流を逸らして他の場所で戦い出す。


その場に残ったのはガニングとバーディ

そして、ヴァルシアともう1人。


「残りましたか。では、ガニング様が出るまでもありませんよ。私がやらせていただきます」

そして、バーディが前に出るが


「貴方の相手は私がさせてもらうわ」

ヴァルシアの後ろに控えていた女が前に出てくる


「そうですか、まぁいいでしょう。ガニング様ならあの程度余裕でしょうし、貴方の相手をしてあげましょう。場所を移しても?」

「いいわ」


そして、ガニングとヴァルシアを残して2人は場所を移した。



          *



バーディ達は場所を移して、仕切り直す。


「私はガニング様の配下、上級悪魔バーディと申します」

そして丁寧にお辞儀をする。形だけの敬意も何もないお辞儀を。

そして、もう1人が応える


「私は始帝国の王ジン様の配下、断罪ノ聖典

第三席次『暗黒福音』エヴァンジール」


《断罪ノ聖典》

第三席次「暗黒福音」エヴァンジール

まっすぐな黒髪と左目に眼帯をつけた白い軍服の様なものを着た女性



2人の間を静寂が支配する。

戦いは突然始まる。


「第四階梯・聖槍ホーリーランス

エヴァンジールが手のひらから魔術で白い槍を放つ、その魔術はバーディを貫いた。

と思われたが、バーディの体に空いた穴がどんどん霧の様な物で埋まっていくと何もなかったかの様に傷が消えた。


「無駄ですよ!私は上級悪魔、私の体は霧の様に変化させられる!第四階梯程度では傷一つ付きませんよ!」


それを聞いた、エヴァンジールは再び唱える


「第四階梯多重詠唱・聖槍ホーリーランス


するとエヴァンジールの前方に20本近い白い槍が現れ放たれる。

その槍はバーディを貫き続けるがすぐに傷が癒やされていく。


「無駄ですよ!無駄無駄ぁ!」


とバーディが叫んでいると、次の魔法が放たれる


「第七階梯・天使のいかずち

「何!?」


その魔法はバーディの頭上から白い雷を起こした。

バーディは避けるが腕に当たってしまう


「クソ!!!」


黒焦げた腕は徐々に回復していき、何もなかったかの様に無傷となった。


「なるほど、第七階梯を使うなど人間にしてはやるみたいですね」


だが、エヴァンジールは黙ったまま何か考えている。


「私を無視するな!」

無視されたことに怒りを覚えたバーディは

エヴァンジールを攻撃しようとする。

だが、体が凍った様に動かない。


「なに!なぜ動けない!」


すると、エヴァンジールは呆れた様に話し始めた。


「今更私の魔術に気づいたの?呆れたわね」

「なんだと!なんの魔術だ!」


「第十階梯無詠唱・聖汚染ホーリーポリューション


「だ…第十階梯だと!ありえない!人間如きが第十階梯など!」

驚きで後退りしそうになるが、周りは悪魔の弱点である聖属性で汚染されている。金縛りの様に体が動かない。


「第七階梯如きで驚いていると思ったら、上級悪魔はこの程度なの?あなた弱いわね。

私は貴方で実験してたの、この世界で上級悪魔がどの程度かをね…」

エヴァンジールは呆れた様に肩をすくめた。


「ありえない!人間如きが上級悪魔より上位の魔術を使えるなど!ありえない!」

「現実逃避ご苦労様、貴方は用済みね」


そして、エヴァンジールは左目の眼帯を外した。左目は白い瞳に黒い紋様が刻まれていた。


「消えてなくなりなさい」

その瞬間、黒い波動がバーディを襲った。

すると劇的な変化が起こる。

バーディの体が足元から黒い粉の様に粉々になっていく。


「なんだ!なんなんだ!これは!」

バーディは体の崩壊を全力で止めようとするが崩壊は止まらない。


「本当に滑稽ね、この世界で自分が一番かの様な物言いだったくせに」


そして、全力で崩壊を止めようとするバーディを侮蔑の目で見る。


「私が一番なのだ!こんなことありえない!

あとちょっとだった!あと少しで!あの馬鹿な魔族を思考誘導でエルフ共を襲わせて!最後には馬鹿な魔族を殺して私が王になるはずだったのだ!」


バーディは大声で叫ぶ。

「弱者はよく喋るわね。じゃあ、さようなら」


バーディの体の崩壊は続く。すでに首まで崩壊が進んでおり、バーディの叫び声も意味をなさない叫び声となっている。


「ヴァルシア様の戦いもすでに終わっているでしょう」


エヴァンジールは叫ぶバーディに背を向けてヴァルシアの元へ戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る