第十四話「東の戦い・断罪ノ聖典第十二席次『漆黒蓋世』クロカ」


神樹の森・東部


魔物の大軍後方


「早く進みなさい!エルフ供を殲滅するのよ!」


魔物を指揮するのは1人の悪魔

中級悪魔・淫魔サキュバスサミィ


「早くしなさい!遅れてるわ!」


(出遅れた!私が先に功績をあげてガニング様に褒めてもらうのに!)


サミィが魔物達を指揮していると、数人の人影が一瞬にしてサミィの目の前に現れた。


「イタタタ…おじさんになると腰が痛くなるねぇ」


突然現れた男たちの1人がそう呟いた。


「誰だ!」


「おっと失礼お嬢ちゃん。俺は始帝国ファウスト・断罪ノ聖典第十二席次『漆黒蓋世』クロカちゅうもんです。以後お見知り置きを」


《断罪ノ聖典》

第十二席次「漆黒蓋世」クロカ

中肉中背で気怠げな表情をした作務衣を着た黒髪の中年男性。


「ガニング様の言ってたエルフを助けに来たっていう国ね。そんな人数で何ができるのよ!あなた達やっちゃいなさい!」


その言葉と共に五十近い大小様々な魔物がクロカ達を襲う。


「魔物はお願いね」

「お任せください」

クロカの言葉で5人の騎士が動いた。瞬き一つの間に襲ってきた魔物はすべて肉塊と化していた。


「なっ!?」


その後も1万を超える魔物達と5人の騎士達が対等に渡り合っている。そんなありえない光景にサミィは驚きを隠せない。


「じゃあお嬢ちゃんの相手は俺だね」


「うるさい!」


そんな中クロカの飄々とした態度に苛立ったサミィは手に持つ鞭を振る。

鞭は長さ的にクロカまでは届いていないためクロカは動かない。


「届いてないんだけど?」


そのまま、鞭がクロカの目の前を通り過ぎたと思いきや生き物の様に鞭が反対に動き長さも伸びてクロカの首を落とした。


「ハハッ!!無様ね!!」


(大したことないじゃない、所詮人間なんてこんなもんよ)


「いやー驚いたなぁ」

「なっ!?」


サミィの背後には腰をさするクロカがいた。


「なんで生きてるのよ!?」

「いや、あれは俺じゃなくて俺の様な何かだからね。そしてお嬢ちゃんはすでに俺の術の中ってこと」


その瞬間、森であった場所は闇に包まれる。

そこにいるのはクロカとサミィのみ。


「この場所はね、俺の思い通りの現象を起こすことができるんだよね」

「何を言ってる」


「たとえば…」

すると、漆黒の世界が美しい花畑に変わる

そして海の中へ、次は空の上、先ほどまでいた神樹国家の街中、そして溶岩地帯と、コロコロと風景が変わっていく。


「地形や場所以外もこんなこともできるよ」

その瞬間、サミィの四肢が弾け飛ぶ


「え?」

幻想的な風景に見入ってしまっていたサミィは、そのことにすぐ気付かなかった。

当然足がなくなっているので立つことができず地面で悶えている。

心臓の音と共に血のような液体がビシャビシャ溢れる


「いやぁぁぁああ!!!なおらない!なおらない!」


悪魔は体をほとんど必要としていない。悪魔からしたら、心臓以外はただの器なのだから。そのため回復速度が異常に早いのだが、今回は弾け飛んだ四肢が再生しない。


「おっとすぐに死なれちゃ困るなぁ」


そして、クロカはパチンと指を鳴らした。

するとサミィの四肢がいつの間にか弾け飛んだのが嘘だったかの様に生えていた。


「君たちはジン様を怒らせたんだ、苦しみの中で死んでくれ」


「な…何を言ってるの?」


「まぁ体験すればわかるよ、終わりにしようか」


スタスタとサミィに歩み寄るクロカ

サミィは恐怖のあまりジタバタと逃げるが四肢が飛ばされた感覚がまだ残ってるのか体を這わせながらクロカから逃げている。


だが、サミィの頭をクロカが掴んだ。


「い…いやぁ」


サミィの声は掠れ、震えている。


「じゃあ、悪夢の中で死ね」


「ぁぅ」 


すると、クロカの手からサミィの頭へと地獄の様な光景と痛みが走り、サミィは耐えきれず一瞬で死を迎えた。


「もう少し耐えろよ」


その後サミィの体は魔素となり消えていった。


クロカは2人を覆っていた《黒蓋》という術を解く。


するとその場には魔物たちの死骸の山があった。そして、クロカの出現に気付いた騎士達が集まってきて跪き、1人が報告を始める。


「クロカ様、こちら魔物約12000体の殲滅完了致しました」

「ご苦労さん、こっちも終わったから帰ろっか」


「他の方々の援護はよろしいのでしょうか?」


騎士の質問にクロカは笑顔で答えた。

「大丈夫大丈夫。あいつらも強いヴァルシア様もいるしね、何かあったらジン様から命令があるだろうから戻るべきでしょ」


「そうですね」


騎士が納得していると

「…腰も痛いし」

と騎士が聞き取れるか否かの小言をクロカが言う


「ん?何か言いましたか?」

「いや!何も言ってないよ!さぁ戻ろうか!」


こうして、神樹国家・東の戦いが終わったのだった。

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