第十話「会談と試験」
神樹に寄り添うように生えている大樹はシルフィリアの城であり。その玉座の間は神秘的だ。
壁は当然木でできていて綺麗な木目と温もりが人を安心させ、大きなすりガラスは木漏れ日を優しくさせる。
そんな玉座に座るのは、
神樹国家二代目国王ブレイブ・シルフィリア
金髪を短く切り揃え、見た目は50代後半だが王族はエンシェントエルフであり長命のエルフより長命なため成長も遅い、おそらく1000年以上生きているだろう。そんなブレイブ王の綺麗な黄金の瞳がジン達を見つめている。
「お初にお目にかかるファウスト殿。この度は救援要請を受けていただき感謝する」
そして国王ブレイブは頭を下げた。
神樹国家の文官たちは数百年この国を統治し続けている絶対者が頭を下げたことに驚いている。
「頭を上げてくださいブレイブ殿。私達は困っている方々を助けにきただけですから」
「そう言っていただけてありがたいです」
とブレイブ殿は朗らかに笑ったが即座に真剣な顔になる。
「それであなた方はシルフィリアに何を欲しているのでしょうか?」
「いきなりですね」
「回りくどいのは苦手なのでね」
「そうですか…」
そう言って少し考えるそぶりをジンが見せたあとパンッと手を叩き話だす。
「今思いつくのは大きく3つですね。まず一つ、協力体制の構築、いわば同盟ですね。
二つ、国家間の貿易。最後に、空港をこちらに作らせていただきたいですね」
「空港ですか?」
「はい。空の移動手段であり輸送手段を受け付ける飛行場とその施設のことですね。主に私達主導で動くと思われるので土地を借りる形で月に一度土地税を払いましょう」
国王ブレイブは考え込む
しばらく考えてから答える。
「同盟と貿易に関してはこちらから頼みたいほどですな。空港に関しては、もう少し検討させていただきたい」
「それではよろしくお願いします」
僕がブレイブ殿に手を差し伸べる
「この国を頼みま…」
バン!
ブレイブ殿の話を遮るように扉が開かれ誰かが入ってくる
「王子おやめください!」
衛兵が入ってきた人を引き止めている
「王子?」
「父上!何故このような者たちの力を借りるのですか!」
「やめんか!ブラス!この方達は我が国を助けるために来てくださったのだぞ!」
ブラスと呼ばれたエルフの少年はブレイブ殿と他国の力を借りるか借りないかで言い合っている。
「ブレイブ殿、この方は?」
「おっと、すみません。こいつは第一王子ブラス・シルフィリアです」
僕はブラスの方に向く
「はじめまして、ブラス王子。私は始帝国ファウストの王、ジン・ファウストと申します」
「ふん!」
ブラス王子は鼻息荒く顔を背けた。
その態度にヴァルシア達は殺気を漏らしている。
「おいブラス!失礼だぞ!」
「大丈夫ですよ、ブレイブ殿。それで、ブラス王子は何が不服なのでしょうか?」
ブラス王子は嫌な顔をしながら答えてくれた
「そもそも、他国に力を借りるのが嫌なのだが…強いと言うが貴国が連れてきた兵は少なすぎる!私たちを救いたいという意思が感じられないではないか!」
ブラス王子は言ってやったぞと言わんばかりの顔をした。
「その事でしたら、我が国の兵は一人一人が一騎当千の力を持っているのでご心配なく」
「じゃあ証明してみろ!」
ブラス王子がビシッとこちらに指をさしてきた。
(証明か…)
どうしようかとしばし考えてから答える
「では、我が国の騎士1人とそちらの兵士で模擬戦をしたらどうでしょうか?」
「いいだろう!父上、兵士は私の方で選抜させていただきますがよろしいでしょうか?」
ブレイブ殿はブラス王子に振り回されて疲れ切った表情をしている。
「言い出したのはお前なのだ、お前に任せる」
「わかりました!」
と言って勢いよく部屋を出て行った
*
神樹国家シルフィリアの練兵場
サッカーコートの半分ぐらいの広さで練兵場の隣には案山子に鎧を着せて弓矢の練習場となっていた。
僕たちとブレイブ殿、シルフィリアの文官数名、国王の護衛数人が既に集まっていた。
「ブラス王子は遅いですね」
「あいつは何をやっているのだか」
と話をしていると練兵場の門からブラス王子がやってきた。後ろには20人ほどの兵士がいる。
「霊装部隊が何故ここにいる!?」
ブレイブ殿は驚いていた。
「霊装部隊とはなんですか?」
霊装部隊
ブレイブ殿の説明によると、元来エルフは精霊との親和性がとても高いので精霊の力を借りる精霊魔法を得意としている。精霊魔法は親和性が高ければ高いほど強力となる。
霊装部隊は精霊との親和性がエルフの中でも特に高い者達を集めた精鋭部隊なのだ。神樹国家のエルフ約八万人の内の20人なので神樹国家の秘密兵器というわけだ。
「なぜならこの者達全員が戦うからですよ父上」
「ファウスト殿の騎士は1人なのだぞ!」
始帝国は森羅騎士団の連隊長1人が戦うことになっている。
「ファウスト殿はこちらの兵士が1人とは言わなかったではありませんか。しかも、騎士の人数が少ないなら魔物の大軍相手では多対一になることが多いのでは?」
「そういうことを言っているのではない!」
ブレイブ殿が激昂するが僕が手で制止する。
「大丈夫ですよ。さぁブラス王子始めましょうか。ブレイブ殿審判をお願いします」
「承った」
ブレイブ殿が審判をするため闘技場に上がる
霊装部隊は陣形を作り、始帝国の騎士は棒立ちで剣も抜いていない。ブラス王子は怖気付いたのかと嘲笑している。
騎士が剣を抜かないのには理由がある。
武器の格が違いすぎるからだ。武器にも格があり高いものから低いものまである。
武器の等級は
無級→新級→真級→特級→超級→星級→英雄級→叙事級→神話級→始原級
となっていて、霊装部隊の武装は手入れがしっかりしているが殆どが新級であり、1人だけ真級を装備しているので、おそらく隊長格なのだろう。
そして、騎士団の装備は大隊長・連隊長が超級、師団長・軍団長が星級、各騎士団長が英雄級となる。今回戦うのが連隊長なので超級となる。霊装部隊とは二つ三つ等級に差が出る。そして、ここまで差があり使い手のレベル差もあると少し戦うだけで死者が出る場合があるので僕から武器は抜かずに手を抜いて戦えと騎士に命令している。
「では、これより始帝国の騎士と霊装部隊による模擬戦を開始する。当然相手を殺すのはなし。私が続行不可能と判断した時、勝敗とする」
騎士と霊装部隊が睨み合う
「それでは…始め!!」
と勢いよく始まった戦いはあっさり終わった。
まず、開始とともに騎士が霊装部隊の背後に一瞬で移動する。霊装部隊は反応が大きく遅れ、背後にいると気づいた時には遅かった。
遅れて攻撃するが容易くかわされ鳩尾への攻撃や首への手刀で気絶させられる。そして、1分もたたずに霊装部隊の全員が痛みで倒れているか気絶しているという状況になった。
「始帝国騎士の勝利!」
ブラス王子は驚きで尻餅をついている。
僕はブラス王子の元に行き顔を覗き込む、
「これでよろしいでしょうか?」
「い…いいだろう!」
と言ってブラス王子は逃げるように練兵場を去っていった。
その後は、私たちを歓迎する食事会が開かれた。
ブレイブ殿や霊装部隊の隊長が森羅騎士団の騎士と話をしていて、騎士が「私よりもジン様の方が何百倍も強いですよ」と言って腰を抜かしたのは、また別のお話。
*
神樹国家シルフィリアの神樹の森、北部
魔物の大軍の後方
「ガニング様ー!イディン様から報告がありました!シルフィリアに他国から救援が来たようでし!」
小さなこれぞ取り巻きと言わんばかりの見た目をした超下級悪魔が報告している。相手は魔族。
巨体は筋骨隆々、灰色の肌で4本の腕を持つ
「やっぱり他国に助けを求めたか」
「どうしますですか?」
「イディンに伝えろ、あの作戦を始めると」
「わかりやした!」
悪魔は命令を聞くと走り去って行った。
戦いはすでに始まっていたのだ。
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