第十一話「食事…」


模擬戦の後、大樹の城で食事会が開かれた。

そこではブレイブ王が僕に国の重鎮や王族を紹介してくれた。


「では、ファウスト殿。こちらが私のもう1人の息子、第二王子ムート・シルフィリアです」


ブレイブ王の隣には綺麗な緑の瞳と整った顔立ちから信じられないくらい、オドオドと自信のなさげな表情をした少年がお辞儀していた。


「ムートと申します。よ…よろしくお願いしましゅっ!」

と盛大に噛んだためムートは顔を赤くしている。


「重度の人見知りのため、自分に自信をなくこの有様です。才はあるのですがね」

「いえいえ、ムート殿こちらもよろしく」

「は…はい」


「もっとシャンとしてください兄様」

「む…むりだよ〜」

第三王子のセインにまで注意されてさらに 縮こまり、自信を無くすムート。

すると何かに気づいたかのように声を上げた


「あ…忘れ物してきたからちょっと部屋に取りにいってくる」

と逃げるように食事会場を出て行くムート


「ほんとに、ムート兄様は慌ただしいです」

「いいじゃない、それでもムートのこと好きでしょ?」


話を聞いていたのかルイが会話に参加してきた。


「はい!」

セインが元気よく答えていた。


「ムート王子はどんな方なんだい?」


ルイに聞いたつもりが、その質問にはブレイブ王が答えてくれた。


「ムートはですな、魔術が特に得意なのですよ。確か第五階梯の魔術を使えたはずです」

「それはすごいですね」


この世界に来て調査を行った結果、この世界は魔術の発展が遅れている。魔術体系は同じであるのは確かで、《ONRY. WORLD》の魔術が存在するのも確認されているがエルフや人間などの人種の中では第三階梯まで使えれば一人前、第四階梯は達人などと言われている。


第五階梯が使えることが確認されているのは、ガスバ帝国やアドミン聖王国に数人、そして、ごく一部の冒険者の最高位Sクラス冒険者に数人と、ごく僅かだ。ましてムートの話などほとんど聞かなかった。


「ムート殿の話は聞いたことなかったのですが?」

「ムートはあまり自分のことを話さないのでね」

と呆れたように話している


「ですが、魔術だけでなくこの国をよく考えている自慢の息子なのですよ」

と自慢げにも話す。


「ブラス王子はどうなのでしょうか?」

不意に気になり話を振る


「ブラスですか…あいつはこの国を愛する気持ちは一番でしょう。ですが、最近は再びあの事件を引きずって復讐が目的のように行動していて危うくもあります」


「あの事件?」

その言葉が聞こえた時、室内にいたすべてのエルフの顔が暗くなる。


「あまり話すことではないのですが、ブラスはとある魔族に婚約者を殺されているのです。そして、一番最悪な失い方をした。今思い出すだけでも腹が立ちます」

「最悪な失い方?」

「それを聞きますか…」


「いえ、言いたくなければいいのですよ」

その言葉のあと、少し国王ブレイブは悩むが話し始める。


「いえ、話しましょう。今回の戦いにも関係ありますから」

「どういうことでしょうか?」


「あとから話すつもりでしたが、今回の戦いで魔物を扇動する者は見当がついてるのですよ。魔族のガニングという者で、今回の戦いを始めた発端の魔族であり、ブラスの婚約者オーファを殺した魔族でもあります」


その後に聞かされた話は聞くに耐えなかった


ブラス王子の婚約者オーファは結びの儀、いわゆる結婚式の前日に姿を消した。

その後、捜索隊が出されたが見つからず一月の時がたったある日。大樹の城の前に魔族が来た。


ガニングだ。


ガニングは木でできた棺を担ぎ城に侵入。王の前に棺を置き「楽しかった」と言って去っていった。


その棺の中には、オーファの死体があり。

オーファは結びの儀の衣装を着て綺麗な状態で返された。


ある一点を除いて。


お腹に子供がいたのだ。魔族との子が。

当然子供も死んでいたが。その事件はブラスを狂わすには十分だったようだ。


第一王女はブラスの婚約者オーファとは友人であり、蘇生魔法について調べるため旅たち


ブラスは復讐に走った。



そう話したブレイブ殿は唇を噛みちぎりそうな勢いで、唇からは血が垂れていた。


「そのようなことを話させてしまって申し訳ない」

そして僕は頭を下げた。


ヴァルシア達は頭を下げた事に少し驚いていだが、相手の思い出したくもないことを思い出させてしまったのだから、当然だ。


「いえいえ、ファウスト殿のせいではありませんよ。さぁ!さぁ!暗い雰囲気はやめで楽しい食事会にしましょう!」

「そうですね。…ん?そういえばブラス王子は参加してないのですね」


会場を見回して、この国の重要な人物が参加してないことに気がついた。


「あぁブラスは部屋にこもってますよ。模擬戦に負けたのを引きずってるのかと」

「そうですか……」


その時異変は起きる。


ドコォォォオオオオン!!!!


大きな爆発音と揺れが起こる。


その音に会場にいる全員が警戒していると、文官が会場に入ってくる。

「大変です!ブラス王子の部屋で爆発が起きました!!」


「なんだと!」

驚いた国王ブレイブが走り出した。

僕も断罪ノ聖典と護衛騎士に周囲を警戒させるのと会場にいる人を守るように命令する。そして、ヴァルシアとハナエルと共にブラス王子の部屋へと向かった。



         *



30分ほど前

「はぁ〜」

第二王子ムートは逃げるように会場から飛び出て自分の部屋へと向かっていた。


「あんなの無理だよ、あの人たち一人一人魔素量がえげつないんだもん」

ムートが魔術に長けているのは王族の中で特に魔素を見る目が優れているからだ。



「こわかったぁ…ん?」


それに気づいたのはブラス王子の部屋の隣をムートが通った時だった。

「ブラス兄さんの声?」


ブラス王子が誰かと話している声が聞こえたのだ。


ムートはブラス王子の部屋に聞き耳を立てる


『イディン様!いつ力をくださるのですか!』

『まぁまて、そんなに大声を出すな。誰かに聞かれるだろう。今日はそれについて話に来たのだから』


ムートはドアの隙間から部屋の中を覗く。

ブラス王子の隣にそれはいた。


それは大きな顔に一つの大きな目と顔の端から端へ裂けるように開く口。体はなく顔から手が生えていて顔の後ろには黒い翼が生えている。


それは、悪魔だった。


悪魔によっても見た目は変わる。人に似た者もいるが、上位の者でない限り人型はない。それに、悪魔でないとあれほどの禍々しい魔素の色はしない。


『今日はお前に力を与えるために来たのだ』

『おぉ!ついにこの時が来たのですね!』


その話にムートは兄が悪魔と契約を結び、力を得ようとしているのがわかった。理由はただ一つ。


婚約者を殺した魔族への復讐だ。


兄が悪魔と契約しているのを止めようと、いてもたってもいられず。


ムートは勢いよくその扉を開ける。


「待って兄さん!」


悪魔とブラスの目線がムートに集まる。


「ムート!?」

「ん?…あぁ第二王子か」


ムートは勇気を振り絞り声を出す。


「だめだよ!悪魔などと契約するなんて!」


「何を言ってるんだムート…」


「オーファさんも復讐なんて望んでないよ!」


その言葉にブラスは激昂する


「お前に何がわかる!!!お前がオーファを語るな!!!」


「うっ」

ブラスの怒りに、そして言葉に、ムートはたじろぐ。


「僕は彼女に首飾りも渡せなかったんだぞ!」


この国の王族は新たに家族になる者にその者と同じ目の色の宝石の首飾りを渡す。

ブラスは青、ムートは緑、セインは金


そして、婚約者のオーファはブラスと同じ青だった。


「彼女を助けられなかったこの僕が!彼女の無念を晴らすのだ!」


ブラス王子は両手を大きく開く


「そしてそれは、この国を売る程度で叶う!」


ブラス王子の目が爛々と輝く


「私はイディン様に力をもらい。あのガニングに復讐する!!」


その言葉にブラスの後ろに立つ悪魔イディンは頷いていた。


「うんうん。そうだな、お前の復讐は成功する」


「どうだ!ムート!成功はすでに約束されているのだ!」


ブラスは喜びを口にする。


がわだけな」

そのイディンの言葉と同時にイディンの口が大きく開かれる。


5mはあるのではないかと思われる口はブラス王子を飲み込んだ。


「えっ?」

ムートは驚きで動けない

目の前にいた兄が一瞬にして消えた。


「ハッ!うるせぇ奴だったぜ。お前は俺の進化のための餌でしかなかったんだよ」


「おまえ…何をした…」


「ん?何を?あぁ、こいつはな俺があの方と同じ上位悪魔になるための餌だったんだよ。当然あのガニングもな。あいつとの契約を解くには上位悪魔になるのは必須だ。あいつは俺が上位悪魔になるのは戦力増強だとか思ってるがあいつが戦いに勝ったらこの国ごと俺が横取りするつもりだったんだよ!」


ムートは崩れ落ち俯く

そのまま独り言をぶつぶつ喋り出した。


「大丈夫。大丈夫。兄さんは強い人なんだ」

「何が大丈夫なんだよ、俺に騙されるほど頭の悪い奴が強いわけねぇだろ」


「兄さんは誰よりもこの国を愛して、みんなに好かれる王子なんだ」

「国を売った奴だけどな」


「兄さんはこの国の王になる人だ。こんな所で死ぬわけないんだ」

「まぁ精神は俺の中で生きてるかもな、ほとんど俺が掌握してるが…」


「ていうか、とんだ屑王子じゃねえか」


イディンの一言一言が煩わしくムートの怒りが沸々と煮え繰り返り、爆発した。


「うるさい!お前は黙ってろ!第五階梯魔術《ホーリーラン…」

ムートが第五階梯魔術《ホーリーランズ》を最大に強化してイディンの方に向けて手をかざした時、ムートは衝撃を受ける。


「どうだ、最高だろ?」


そこにはブラスの姿があった。


「あいつを体ごと喰ったから、あいつの体を使う事もできるんだぜ。ほら?撃ってみろよ」


ムートには撃てなかった。


「しょうもねぇな」

ムートはイディンがどこからか出したナイフの斬撃で両足が落とされる。


「うっ!」

ムートはうつ伏せに倒れる。


「まぁここでこの国の行く末でも見てろ、

あぁ…うるさくされても困るなぁ」


その瞬間ムートの喉が焼かれる。


「!!!!」

ムートはうめき声しか出せない。動けない。


「じゃあな」

イディンが去っていく。ムートはその後ろ姿を見ることしかできない。


情けない


ムートは自分のことをそう思う。

兄のような決断力はなく、弟のような自信と才能もない。ただ好きな魔法をしていただけだ。


情けない…だが、この国を。家族を。

愛する気持ちが人を動かす。





「ん?」

意気揚々と歩いていたイディンの足が止まる


足にムートがしがみついている。

「おいおい、邪魔すんなよ。お前は家族が無惨に死んでいくところを見させて、感想を聞いてから殺すんだから。離れろって」


イディンが足を振るがムートは離れない。


「おい、しつこいぞ。ここで死にたいか?」


ムートは離れない。そして吐血しながら無理矢理声を出す

そして放った。


は!!負げない!!!」

「何!?」


ドコォォォオオオオン!!!!


ムートは第五階梯爆裂魔術《爆織エクスプロージ・ウィデン》を放った。ムートは自らも巻き込み自分の出せる最大の攻撃魔術を行使した。


これが、神樹国家で語り継がれる最高の魔術師ムート・シルフィリアの最高の魔術であり最後の魔術であった。

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