第九話「準備」

「シルフィリアの使者の方が参りました」

ハナエルが帰ってくると後ろには使者と思われるエルフの女性がいた。

「お初にお目にかかります。始皇帝ファウスト殿下、私は神樹国家シルフィリアから参りました。第二王女ルイ・シルフィリアと申します」


「よく来てくれたね。ぜひそこに座ってくれ」

「ありがとうございます」


使者のルイが座わりメイドが紅茶を出した所で話を始める。


「部下から聞いているが、改めてご用件は何かな?」

「はい、単刀直入に言います。我が国救っていただきたい」

僕は頬杖をついた


「たしか、魔物の大群に知性の持った魔物あるいは魔族がいるんだったかな?」

「はい」

ルイは出された紅茶を一口飲み口を湿らす。


「今も仲間達が瀬戸際で抑えています。ここに来る時も何人も仲間が死にました。ですが!このままでは、我が国は滅んでしまう」 

「他の国は当たらなかったのかな?」


ルイの雰囲気が急激に暗くなる。

そう、エルフの国神樹国家シルフィリアは多種族共生国家の南方にあり、近くにはアドミン聖法国や少国家連合がある。


「他の国にも要請は出しました。共生国家は今の国の状況では無理だと門前払いを受けました。聖法国も同じようなものでした、少国家連合はそんな軍は持っていないため対処不可能と言われてしまいました。そこで、残ったのが始帝国ファウストだったのです」


「そうですか…」

(どの国も対応ができないのか?共生国家や少国家連合はわかるけど調査によれば聖法国は対処できるように思えたけど。宗教的理由?何か思惑が?まぁいい、ここは助けると決めたんだ)

そして、僕はソファを座り直した。


「では、ルイ殿。こちらは既に決まった答えをお教えしましょう」

使者のルイは肩をビクリと跳ねさせる


「シルフィリアへの救援要請ですが、受けさせていただきます」


ルイは驚きで惚ける

そして、言葉が徐々に頭に染みていき、目尻に涙が溢れる。

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

「いえいえ、私もシルフィリアに恩が売れると思いましたし、それなりの見返りはいただきますよ」

「はい!ありがとうございます!」

ルイが泣き出す、泣き崩れそうだ。

「さぁさぁルイ殿泣き止んで。こちらもすぐに準備を致しますので別室でお待ちください」

「ぶぁい」

「ハナエル、ルイ殿をお願い」

「わかりました、こちらへどうぞ」

「ぶぁい」


顔がぐちゃぐちゃになったルイとハナエルが部屋を出た。


「あんなに泣くなんてね」

「それほどジン様のご慈悲が嬉しかったのでしょう」

「まぁそういうことにしておこうか、じゃあヴァルシアにはこのことをアルトリアに伝えるのと、騎士の選定。人数は…20人くらいかな。あと断罪ノ聖典の3、6、7、12の席次を集めてくれ」

「わかりました。では、失礼します」

ヴァルシアが出て行った。

ジンは新たな出来事にワクワクが止まらなかった。



          *



ズビィーー!!

盛大に鼻をかんだのは神樹国家シルフィリアの使者のルイ・シルフィリア。


「まさか、あんなに簡単に承諾してくれるなんて」


ルイ達、使者一行は元々始帝国へ来る予定ではなかった。

始帝国と共生国家の戦争の話を聞いたからだ。約30万人をたった3人で全滅させた話を聞いた時は血の気が引く思いだった。

もしその攻撃が我が国に向けられたら、我が国の現状を知った始帝国が攻め滅ぼそうと動いたら、こちらはどうしようもできないと思った。


だが、始帝国しかなかった。それほど神樹国家シルフィリアは追い込まれていたのだ。


「だけど…」

ルイは先程話をしたジンを思い出す。

「すごい魔素だったけど、悪い人には見えなかったなぁ」

エルフの王族は人それぞれの魔素量と魔素の色を可視化できる。


ルイが最初にジンを目にした時は混沌のようだった。白と黒がグチャグチャに混ざり合った魔素で魔素量が圧倒的で恐怖と尊敬の相反する気持ちが反芻していた。

冷や汗も止まらなくて大変だった。


だけど、話してみれば優しさも感じる声色で話してくれていた。ように思う。

何より助けてくれると言ってくれた。

他の国は見捨てて行ったのにも関わらず。あってすぐに承諾してくれた。


これで助かると思った。助けてくれるなら魔素量に怯えるなんて、どうでもいいことだった。


いや、気を緩めてはダメだ、まだ助かったわけじゃない。

自分も頑張らないと。


「よし!がんばるぞ!」


コンコン「失礼しま…」


「おー!!!…あっ」


握り拳を上げて盛大に「おー!」などと言った時、ちょうど飲み物を持ってきたメイドと目があってしまった。


メイドは気にしてないようだったが、ルイは羞恥のせいで体が一回りも小さく見えるほど

縮こまり、顔を赤くしていた。



         *



都市ツヴァイ城門付近では神樹国家シルフィリアへと向かう馬車が並んでいた。

そこには森羅騎士団の連隊長クラスが25人

(そのうちジンの護衛が5人)

ジンの侍女としてメイドが4人

都市長「天主」ルーラ麾下の神官天使5名

都市長「魔神」ヴァルシアの部下ハナエル


そして

都市長「魔神」ヴァルシア



今回の作戦実行の要である

《断罪ノ聖典》

第3席次「暗黒福音」

第6席次「叛神呪縛」

第7席次「私利私欲」

第12席次「漆黒蓋世」

この4人だ。


「集まったみたいだね」

馬車に向かいながらアルトリアに話しかける

「そのようですね」

「ヴァルシア、準備は完璧かい?」

「はい。《断罪ノ聖典》の4人、作戦参加の騎士20人、ジン様護衛の騎士5人、侍女4人、神官5名、私の補佐としてハナエル。そして、私を含め総勢40名となっています」

「よし、じゃあ行こっか」


そして、ルイに振り向き

「ルイ殿も馬車に乗ってください、お連れの騎士様は後ろについていただきます」

「わかりました」


そしてルイが乗り僕、ヴァルシアの順番に馬車に乗り込む。

「国のことはアルトリアに任せるよ」

馬車の小窓からアルトリアに話すと。

「お任せください」

深いお辞儀で返される、その姿に満足したので早速シルフィリアに向かうためルイの方に振り向く。


「ではルイ殿、確認なのですが先程お聞きした神樹国家シルフィリアの位置は間違いありませんね」

「そうですが…」

ルイは少し不安そうになる

「何をなさるのですか?」


「それは、今からお見せしますよ」


そして、ジンが指を鳴らすと馬車から見える景色が一瞬で変わる。

「なっ!」


ルイが驚くのは当然だ。この世界では使える者がほとんどいない長距離転移魔術を無詠唱で唱えたのだから。そして、この場所は神樹国家シルフィリアの防衛線の少し手前。


「転移ですよ、ルイ殿の言っていた神樹国家の城門付近に転移しました」

「そ…そうですか」

「じゃあ進んでくれ」


そして、そのまま一団が進んでいると

目の前に木が密集した城壁のようなものが見えてきた


「そこの馬車!止まれ!」

城壁のようなものの上からエルフが声をあげている。

馬車がゆっくり速度を落として止まり、ルイが外に出る。


「私です!ルイ・シルフィリアです!」

「姫さま!?」

城壁にいた兵士は目を見開き驚いた。


「救援要請を引き受けてくれた始帝国ファウストの方達と戻ってきましたので、門を開けてください!」

兵があたふたしている。


「少し待て!本当か確かめるためそちらに兵を送る!」

そのまま20分ほど待っていると、数人が門から出てきた。


「姉様!姉様なのですか!?」

「そうよセイン!私よ!」

門から出てきた男の中から1人の少年が飛び出しルイを抱きしめる。

「姉様が無事で良かったです」


感動の再会に水を差すようだが

「すみませんルイ殿、その方は?」


ルイが慌てて少年を紹介する。

少年は水を差されて頬を膨らませていた。


「この子は私の弟でこの国の第三王子セイン・シルフィリアです」


少年は何か悟ったように、こちらに向き直り

丁寧な口調で

「ご紹介預かりました。神樹国家シルフィリア、第三王子セイン・シルフィリアです」

ルイより少し幼い少年は丁寧にお辞儀をする。


「そうでしたか、私は始帝国ファウストの王

ジン・ファウストです。急ではありますが、

ルイ殿の要請を受けて救援に参りました。

ついでに、シルフィリア国王ブレイブ・シルフィリア殿とも話をしてみたかったのでね」


セインは少し懐疑の表情をするが、すぐに笑顔で答える。

「そうでしたか!ありがとうございます!」

セインは、もう一度強く感謝の気持ちを込めてお辞儀をする。


だが、恐る恐る顔を上げ聞いてくる。


「失礼を承知でお聞きするのですが、戦いに参加するのは、ここにいるファウスト様の騎士だけなのでしょか?」


そういうことだ、たかが30人程度の人数で戦うのかと心配だったのと、疑問でもあったのだろう。


「そうですよ。ですがご安心ください、私の兵は一人一人が一騎当千の猛者ですので」


まだ信用できていないのかセインは未だ心配そうだ。


「では、こちらへどうぞ」

そして、ルイの案内でジンたち一行は神樹国家シルフィリアに足を踏み入れたのだった。

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