第七話「衝撃」

「なんだあの者たちは!!!」

議員の1人が机を思いっきり叩き、音が響く

だが、誰もそのものを咎めたりはしない。

皆同じ気持ちなのだから…


今回の戦争で共生国家が動員した戦力

約32万


それに対する相手が動員した戦力

約3万


圧倒的戦力差に圧勝は確実だと、

ランカンを除く誰もが思っていた。

そして大敗。相手の動いた戦力は僅か3人

というのも皆が理解できないことの一つだ。

監視させていた戦いに巻き込まれなかった無の足によると相手国の王ジン・ファウストも出ていたらしい。


「これからどうすればいいのだ」

「他国に救援を求めては?」

「無理だろう、今回の戦争は私達の非が大きい」

「しかも、あのような者たちにどうやって対抗しろというのですか」


「では、要求を呑むしかあるまい都市の一つなんてことはないだろう」

「ですが、私達は32万もの兵士や働き手を無くしました」


先程からこのような会話が続く


(なんと愚かな)

内心でアークは彼らを非難する

(ランカン様の話に耳を傾けていたら、このようなことにもならなかっただろう)

ランカンは最後までこの戦争に懐疑的だった


(ランカン様…あなたが守りたい民は必ずこのアードが守り切ります)



          *



エンファ多種族共生国家の首都の一角にある商店街に店を構えるとある食堂。そこは、今日の営業を終える準備をしていた。

その時…


カランカラン


とドアベルが鳴り扉が開く

「お客さんすみません。今日の営業は終わりなんですよ」

店主の言葉を無視して入ってきた女はカウンターに座る


「だからお客さ…」

「いつもの」

店主の言葉を遮り女はカウンターにあるものを置いた。


それはコイン。二つの鎌を交差させた死神が精巧に掘られている。


店主は目を見開き

「おいお前!すぐに扉の鍵を閉めろ!」

慌ただしく扉を従業員に閉めさせると


「断罪の方ですかい?」

「えぇそうよ」

「何番ですかな?」

「私は3だけど?」

「こりゃあの方も大物を送り出しましたな」

「そうかしら?」


そう彼女こそアルトリアの直属部隊断罪ノ聖典第三席次の「暗黒福音」

そしてこの店も都市長アイシャの直属部隊闇の影が隠れ蓑にしている店だ。


都市長直属部隊はそれぞれ誰の部隊かわかるようにしている。それがこのコインだ。

都市長それぞれのコインがあるため。全員が誰の部下かわかるようになっている。


「それで今回の任務はなんですかい?」

「今回はジン様の居城に無断で侵入した。この国の《無の足》と言う特殊部隊の本部と支部を壊滅させます。《闇の影》三番隊隊長のあなたなら出来るわよね?」

「当たり前ですな。しかも第三席次もいれば百人力、怖いもの無しですよ」


「あの方からは十分注意して行動するようにと命令を受けているわ」

その言葉と共に男の顔が引き締まり


「了解いたしました」

と言う言葉で店内にいる従業員含め全員が礼をして、


行動を開始する。


この日、共生国家上層部は《無の足》壊滅の一報を聞き絶望する。



          *



ガスバ帝国

この国は圧倒的軍事力を背景に小国を飲み込み大きくなった、まだ歴史の浅い国だ。


ガスバ帝国首都の皇帝の城のとある部屋

「任務ご苦労だったな、ミレイ」

「はっ!」


そこにいるのは部屋の主、皇帝サルファ・ルーラ・エルドール。そして皇帝の前に跪くのはエンファ多種族共生国家五英傑ではなくガスバ帝国四華「毒華」ミレイ

帝国がエンファ多種族共生国家に送った諜報員だ。


「名はそのままなのだな」

「はい。私はあまり表舞台に立ちませんでしたので大丈夫かと」

「ならよい、それで謎の国と戦争になったと言っていたが、どうなった?」

「これはその一部始終を書いた報告書です」


報告書を渡された皇帝はパラパラとめくり中身を一読する。徐々に顔色が悪くなっている


「こ…これは誠か?」

「はい」

「なるほど…1人で10万の軍を一撃で殲滅できる者が最低でも3人。その内の1人がその国の王なのか、馬鹿げた話だ」

「ですが真実です」


「友好国として振る舞うか、各国と共に対抗するか…いや、我が国の新兵器なら相手に対抗できるか?」

「わかりかねます」

「そうか……そうか…」

思考の海に潜る皇帝


「ここだけで話すのも、おかしな話だ。秘書官や将軍、政治上層部も集めて会議をする、手配してくれ」

「はっ!」

(さて、これがこの国の運命を決める会議にならないと良いのだが…)



          *



アドミン聖法国

この国は六人の神を祀る宗教国家で長い歴史を持つ。神の力を借りると言う神聖魔法はこの国から生まれたとも言われている。

アドミン聖法国の中心にある大聖堂の奥の部屋でこの国の最高意思決定機関《六教》の六人の最高神官長が集まっていた。


「水神」セドンを祀る神官長

セイシル・パラン・フィヨルドル

しわくちゃな顔と垂れた長髪の白髪に長い髭、片手には分厚い聖書を持った老人



「柱神」ヲノコトを祀る神官長

カイラル・コミスト・ドージ 

眼鏡をかけた初老の老人で白髪を一つにまとめ口髭も綺麗に整えている  



「英雄神」イロアスを祀る神官長

セエル・バイア・アルガー

白髪を短く切り揃えていて、鋭い眼光、太い首に厚い胸板は神官と言うより拳闘士のようだ。



「天空神」オウラを祀る神官長

シセ・レニエ・ウーファー

この中では一番若い30代前半の最高神官長で前神官長の女性の名指しと周りの後押しで若くして最高神官長となった。長い黒髪と優しげな顔をした女性である。



「冥界神」アイビスを祀る神官長

イウ・トレル・ハウート

優しい笑みを浮かべ目に布を巻いている老婆で細い腕に杖を持っている。昔は盲目の聖女と呼ばれていた。

  


「時空神」クロノトを祀る神官長

シュアト・ヒシマア・ラユーツ

長い金髪と皺があるものの引き締まった体

と整った顔はカッコよさ滲み出ている初老の女性


今回の議長である「柱神」の最高神官長カイラルが会議を開始する。


今回の議題はエンファ多種族共生国家の戦争に関してだ。

「では、今回の議題に関してだが、まず彼の報告を聞いてからにしよう」

その言葉のあと中年の男が部屋に入ってくる

「みなさんこんにちは、ご存知の通り《千里千眼》のウラクと申します」

「久しぶりだな!ウラク!」

「えぇセエル様もお元気のようで何よりです」

「相変わらず固ぇな」


ウラクが静かにお辞儀し資料を最高神官長達に渡していく。

「これが、我ら千里千眼が今回の戦争の一部始終を書き出した資料です」

ペラペラとめくっていく神官長たちだが彼らには徐々に疑問の表情をする

「少し聞きたいのだが、いいかね」

カイラル神官長が手を挙げて尋ねる

「ここにはエンファ多種族共生国家は32万の兵力を動員したとあるが、相手側のがないのには理由があるのか?そして、共生国家は負けたと聞くが相手はそれ以上の兵力だったのか?」

全員の視線がウラクに向く


「カイラル神官長。それは、この戦争の重大なところなので、資料ではなくこの場で話そうと思いました」

「それで?」

「今回は相手国、始帝国ファウストと呼ばれる国の兵の動員数わずか3万です」

「3万だと!」

「一人一人どれだけの練度だ!」

「その兵力差で勝つことができるのか⁉︎」


「みなさんお待ちください」

「なんだ?」


3万です」

「どういうことですか?」


「実際戦ったのは僅か3人です」


全員が静まる


「な…何を言ってる」

「そんなことありえない」

「そんなもので勝てるわけないだろう」

「幻覚などではないのですか?」

「ちがいます現実でした」

またもや静まり返る


そしてシセ神官長が疑問を口にする

「共生国家の被害数はいくつなのでしょう」

それもそうだ、それほどの大軍に相手側は3万だ。どれだけの被害が出れば敗走になるのか気になったのだろう。


「それを聞きますか…」

「なんだ?言いにくいことなのか」

「はい…ですが、お伝えしてしまった方が後から聞くよりマシでしょう。覚悟して聞いてください」

誰かの唾を飲んだゴクリという音が響き渡る

「32万です」


「はぁ?」


「ですから!32万人!言葉通りの全滅です!しかも、その3人が1人10万人を一撃で!殺し尽くしたのです!」


全員が言葉の意味がよくわからず黙り込む

そして徐々に脳に情報が入っていくと顔が驚愕の色に染まる。

「馬鹿な…」

セイシルは聖書を落とした事にも気づかずに


「なるほど、お主はこの報告をすればワシ達が信じないと思ったのかのぉ」

「その通りです。信じてもらえるか心配でした」

「まぁあ、ほかの誰かならまだしも《千里千眼》の隊長ウラク様の報告ですから、信用してますよ」

「ありがとうございます。シセ様」


そして議長であるカイラルが手を叩き注目を集める。

「その辺の話は後にしてウラク。彼らは何者なのだ?」

「申し訳ありません、現在判明しているのは国名だけです。動き出すのが遅かったのと、情報を握るエンファ多種族共生国家の者たちは死んでしまいました」

「それで国名は?」

「始帝国ファウスト」

全員が顔を見合わせ


「全員知らないか」


「そういえば、あの国には獣王がいたと思うのだがどうした?」

「獣王ランカンは相手国の王と思しき男に倒されました」

「そうか…」

室内に重い空気が漂う


「それでどうするのだ。敵対か友好か」

「どちらも考えてみんさい、敵対すればエンファの二の舞。相手は未知のため友好するにもどのようにしろというんだ」

シュアト神官長が呆れたように言う


「ウラク様《神降ろし》でも無理なのですか?」

イウ神官長が問う


「イウ様私などに様はつけなくて構いませんよ。そして質問の答えですが、わかりません。《神降ろし》の6人も強さが桁違いなので私にはわかりかねます。相手も情報が少ないため解析ができません」

「そうですか…」

「ですが、私はもう関わりたくありませんね」

ウラクが呆れた様に肩をすくめて言う


「それはなぜだ?」

「今回最後の監視していたのは私の部下でした」

「それがどうしたんだい?」

シュアトが質問を投げかけると


「死んだんですよ、監視していた部下が」

またもや驚きが隠せない


「おそらく強力な監視対策魔術でしょう。聞いたことがないので階梯も判断しかねます」

「それほどか、奴らは本当に何者なのだ?」


「あの力は、まるで我らが六神様たちのようだ。再臨はあり得るのか?」

「いや、難しいのではないか?その場合あの者の武具に反応があるはずだ」

「口伝では六神様より上位の者が存在すると聞いたことがあります」

「あぁ、だがそれも善神か邪神などにも分かれるだろう《堕ちた女神》のようにな」

「やはり接触するべきか?」

「いずれはそうするべきだな」


そしてウラクが一歩前に出る。

「では、前言撤回としましょう。今は情報が足りません。やはり情報は必要不可欠です。なので、私達千里千眼が命を賭けて情報を集めましょう。我が神に誓って」

そしてウラクは一礼する


「十分注意して集めてくれ、エンファは直接調べたせいで戦争になったと聞く。くれぐれも直接的な情報収集はやらないように」

「承知しました」

「それでは、ウラク隊長頼んだぞ」

「はっ!」

「では、始帝国に関しては情報を集め次第

接触を計ろう」

そして会議の幕が降りる



          *



戦争という名のお遊びに勝利したジンは

騎士団と数人の部下を連れて解放したトワイロスの首都の大広場の国王が話をする高台に

この国の元王女のライラと共に立っていた

だが…

「ライラ様から離れろ!この化け物!」

「私の夫を返して!」

「息子を返せ!」

「お父さんを返せ!」

と国民から罵詈雑言を吐かれる。


普段なら怒りで国民を殺すと思われた部下達は不動の態勢をとる。動かないのはこの後を知っているからか。

そしてライラが口を開く

「みんな静かにして!この方は私を助け、この国を不当に占拠していた共生国家を追い出してくれた方よ!無礼はやめなさい!そして、この国と民を助ける代わりに我が国はこの方の物になるわ」



「…だからジン様の話を聞いて」


国民が驚きの顔をしながら静かになる


「はじめまして。私は始帝国が王、始皇帝ジン・ファウストだ。君達にとっては仇になるのかもしれないが聞いて欲しい」

と言いながら仮面を取る

全員が動かないのは、何故か。化け物と呼んでいた者が美しかったからか。王の覇気にあてられたのかはわからない。どちらにしても、住民は全て等しくジンから目が離せず、魅了された。


「私はこの国を良い国にしたい。平和の象徴と呼ばれるべき国に。国民が幸せと思える国にしたい。だが、そのような夢を持つ王が民に恨まれるのも避けたいので、ある手段を取ろうと思う。君たちが戦争で亡くした者達を思い浮かべてくれ」


皆が目を閉じ想い浮かべる。夫を、息子を、親を、思い出して泣きそうになる者もいる。

そこにジンが右手をかざし


「神の導き」


その瞬間光の粒子が降り出す

そして国民1人1人の前に集まると徐々に人の形になっていき。そこに人が現れる

「あなた!」

「パパ!」

「おまえ!」

などの言葉が国中で起こる

そうジンは、この戦争で亡くなったトワイロスの国民を全員生きかえらしたのだ。


世界一位になった時に運営から送られた能力の一つで「神の導き」という半年に一回、自分の国の戸籍を持つここ半年で寿命以外で死んだ国民全員、もしくは幹部の1人を完全に蘇生できるというものだ。


「私にとって自国の民の死は私の所有物の損失と同義、なら民を救うのが私の使命だ。そして私が支配するからには、この国を平和を象徴する国にする事を誓おう」


静寂が場を支配する

そして、誰がはじめたのかわからないがパチパチと拍手がなり、その音はどんどん大きくなり拍手喝采が起きる

この出来事はトワイロスの奇跡と広く語り継がれていく。



          *



とある場所にて

「やっとだ…やっと見つけた」

暗い場所で誰かがつぶやく

「やっと見つけたんだ…」



「薫…」

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