第六話後編「決闘」
彼は待つ…
自分を殺さなかった者が来るのを…
手は震え汗が滲み、甲冑の中は汗で蒸れる。
だが逃げない。
それはなぜか
身に纏う甲冑は《鬼神の憤怒》
地面に突き刺す剣は《獣王牙》
背にたなびくマントは《守護の闇》
首に掛けるペンダントは《英雄の定め》
それら最強の武具があるから?
違う
逃げても生き残れないとわかるから?
違う
命乞いするため?
違う
それは…
国を、民を、守るためだ。
ここで死ぬかもしれない。
だが、何もせず何も守ろうとせず
死ぬのは彼の生き方ではない。
彼は立ち向かう、それが死だとしても、
無駄死にだと言われても、戦うことに意味がある。
英雄など大層な者ではない、ただ誰かを守るために彼は生きてきた。
この国の英雄
《五英傑》第一席「獣王」ランカン
それが彼の生き様だ。
*
ジン達が歩いて向かった先はランカンのいる場所。ランカンから14〜5m離れたところだ
「始皇帝ジン・ファウストとお見受けする!
私は!エンファ
そしてジンが一歩前に出て
「その始皇帝と言うのはいいね。おっと私は始帝国ファウストの王ジン・ファウストだ」
ランカンが一礼する
「なぜ私を生かした!」
「君が面白そうだったから」
たくさんの命を奪ったことに何も感じないようにジンは言う。
「だから全員殺したと⁉︎」
「そうだ、それ以外に何がある?」
「なぜそのような非道を…」
「何がいけないんだ?僕が守りたい者、一緒にいたい者を守るために火の粉を振り払うのは当然だろう。そもそも、そちらが始めたことだろう」
ランカンは何も言えない。その意見に共感してしまい、さらに正論だからだ。
またもランカンが一礼する
「失礼した」
「構わないよ。それで何かあるんでしょ?」
ランカンが剣を地面から抜き。ジンに矛先を向ける
「決闘を申し込む!」
「死にたがりかな?」
呆れるような言葉と共に数万人の死が凝縮されたような殺気がランカンを襲う
ランカンは身震いしながら首を横に振る
「私も守りたい者達のために戦う!」
先程までの殺気が嘘のように霧散し
「いいね、決闘を受けよう」
ジンは楽しそうに言う
「では、私が勝ったらこれ以上の追撃はやめていただきたい」
ジンは当たり前かと思いつつ
「いや、こっちの負けでいいよ。それで、こっちが勝ったらどうしようか」
ジンが考え込み静寂が場を支配する。
「君が僕の部下になれ」
ランカンは驚きを表情に表す
当たり前だ。ランカンより、そこにいるルーラとネメシスの方が何百倍も強い。なのにランカンを欲しがる理由がわからないからだ。
「いいかな?」
ランカンの考えは決まっている
「断る」
ランカンに民を、国を裏切ることはできない。
それが自分の死に繋がるとしても
「それは残念だ」
やれやれという態度を見せ、「じゃあ距離は」と言いながら歩いて距離を縮める
「これぐらいの距離かな」
それは、ランカンであれば一度踏み込めば届く距離であり、魔術師と思われたジンからしたら不利な距離だったが。
突然ジンの左手に刀が現れる
(あれは刀?東にあるヒノクニという島国の切る事に特化した武器だったか?ジン殿は戦士としても優秀なのか?)
するとジンがどこからともなくコインを取り出す
「これを投げて落ちた時を開始の合図にしようか」
「それで構わない」
ジンがコインを投げる準備をして
「では、始めようか」
その声と共にコインが投げられクルクルと上へ上へと上がっていく。
その時間は短いはずがとても長く感じられる
ランカンは正眼に剣を構え、ジンは片手に持つだけだ。そしてゆっくりコインが落ち…
ガンッ!キイィィィィン
鋼鉄な物同士がぶつかり合う音が響き渡る
ランカンが一度の踏み込みで距離を詰め大上段からの一撃をする。まさに達人の技とはこれのことだと言えるものだった。
だが防がれた。
ジンが大上段からの一撃を剣を横にして防ぐ
ピクリとも動かない。痛さを感じてるわけでもない。ランカンは思っただろう、まるで山を斬るようだと。
そして始まるのは激しいまでの剣戟、激しい剣線は目で追うことはできない。唯一見えるのは剣と剣が当たる瞬間の火花と剣が日光を反射して流星のような光が見えるだけだ。上から下から左右から、そしてフェイントや沢山の技を織り込んだランカンの剣戟はことごとく弾かれる。
ランカンの額には玉のような汗が流れ、はぁはぁと息を切らして、肩で息をしている。怪我を負わされたわけではなく疲労によって体を剣で支えている。
「じゃあ次はこっちの番だね」
その言葉と共にジンが一瞬で態勢を限りなく低くしながらランカンの懐に潜り込む、そこから刀を上に振り上げる。
ブォッという音ともに振り上げられた刀をランカンは間一髪で交わした。無理な態勢だったため、ランカンはそこから後ろに転がる。
距離をとるためにも転がり体を起こし剣を構える
ジンが刀を収める
「もう限界のようだけど、これで終わり?」
「いや、まだある…」
ランカンは剣の柄を強く握りなおす
「これで終わりだ」
その言葉の後、剣を正眼に構え直したランカンは息を吸いながら目を閉じ、スルリと右足を後ろに下げ剣を弧を描くようにゆっくり回し地面スレスレで止める。
「
その言葉が発せられる瞬間上5つ、下5つの
10の刃がジンを襲う。
「面白い」
そしてジンが柄に手をかけ抜刀の体勢になる
「
その言葉と共にランカンの攻撃が霧散し剣が折れ鎧が断ち切られ、ランカンの腹から肩甲骨にかけてが縦一閃に斬られる。
ランカンは血を吐き倒れそうになるが足をつく、そしてそのままランカンは死んでいった
まるでジンに跪くかのように…
そしてジンはある一方を一度見たが何もなかったようにランカンに近づいていった
*
(死んだか)
ジンはランカンの死体を見てだだそう思う。
(面白い人間だし殺すのはもったいないな)
ジンはランカンの死体に近寄り、血を一滴垂らす。
「第十階梯《偽の死》」
その魔法の発動と共にランカンがまるで海の中から顔を出す時のようにプハッと息を吹き返す。
第十階梯魔術《偽の死》これは、死を偽装する高位魔法で。死が偽物なら死んではいないということだ。第五階梯にも蘇生魔法はあるが蘇生魔法は当然死んだ者を無理矢理生き返らせるのだから生命エネルギーを大量に消費して蘇生されるため体が動かなくなったり廃人になったりするが、この魔術はそもそも死んではいなかったと世界を書き換える魔法のため生命エネルギーなど関係がないのだ。だが、そのような効果のため階梯も上から三番目と高く消費魔力も多い魔術となっている。
「な…なぜ生き返らせた」
「君が欲しいからね」
「私は断ったはずだが?」
「敗者の生死は勝者の特権でしょ」
ランカンは呆れたように肩をすくめる
「その通りだな」
「じゃあ戻ろうか、歓迎するよ。ランカン」
そしてランカンを含めた4人はジンの陣営に戻る。
*
「これは何?」
「ハッ!この者が監視をしていたため捕らえてきました」
「監視?」
そこにいたのは黒浪騎士団の騎士2人に腕を掴まれた1人の男だった。
「君は?」
「は…はっはい。私は共生国家の秘密特殊部隊《無の足》です。今回の戦争の一部始終を監視するため送られました」
ブルブルと震え、真っ青な顔で喋る男
それもそうだ、目の前にいるのは一撃で10万人を殺し尽くせる化け物なのだから。
「じゃあ伝言を頼もうかな」
ジンは少し考える仕草をすると
「トワイロスの首都を明け渡せ、そうすればこれ以上の進撃はしない」
ずいっと男の顔を覗き込む
男は少しでも離れようとするが騎士に腕を掴まれているためジタバタするだけだ。
「できるね?」
少しの殺気と笑顔。10万人を殺し尽くした男が笑顔なのだから。これ以上に怖いものはないだろう。男はさらに顔を歪ませ
「はっはい!」
「じゃあ行っていいよ、2人とも離して」
騎士2人が掴んでいた腕を離すと、男はジタバタしながら走って去っていった。
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