第六話前編「蹂躙」

その日は肌寒い風と雲のない空が綺麗な日だった。


《闇の森》とエンファ多種族共生国家との間にある

平野に両軍が展開され、にらみ合ったまま時間がゆっくりと経過していく。


エンファ多種族共生国家・兵数およそ32万人

始帝国ファウスト   ・兵数およそ3万人


共生国家の軍約32万に対して始帝国軍約3万。

相対すると彼我の兵力の差ははっきりとわかる。

共生国家があまりにも多く

始帝国あまりにも少ない


圧倒的兵数の差。約十倍もの兵数差は共生国家からは嘲笑が起きるほどだった。


エンファ多種族共生国家・中央軍後方

そこには今回の戦争に集まったアードを含む議員たちとランカンが戦略を立てるため集まっている

「なんと!相手は3万程度ですか!?」

「これでは単なる弱いものいじめですな!」

「アード殿のおしゃる通りでしたな」

「そうでしょう!」


議員たちは浮かれに浮かれまくっていた。それをランカンが静観する。


「そうは思いませんかなランカン殿」

「だが気をつけたほうがいい、気を抜いていると喉を噛みちぎられるぞ」

場が静まる…そしてドッと笑い声が響く

「ランカン殿はご冗談がお上手なようだ!」

「本当ですな!ランカン殿、10倍もの戦力差ですよ」

「逆転などあり得ませんな、ドラゴンを相手にしているのではあり得ませんぞ」

「まぁもしSクラス冒険者レベルのものが3万なら話は変わるが、そんな人材どう集めろというのですか」


ランカンは呆れたように椅子から立ち上がる。

「それならいいんだがな、くれぐれも気をつけてくれ」

そしてランカンは天幕を後にする。


                             *



始帝国ファウスト陣営


そこには一つの天幕があり中には7人の人影があった。


一人目は当然ジンであり椅子に足を組んで座って肘を肘置きに置いて頬杖をついている。

その後ろにはアーサーとガリシュが立っていて、前にはアルトリアと今回戦争に参加するルーラとネメシス、最後に従軍している黒狼騎士団の---騎士団長の次の地位にいる---軍団長が立っている。


「みんな、今回集まってもらったのは他でもない…戦争という名の蹂躙をするために来た。今回は初めてのこの世界に来てからの戦争だ、騎士団には悪いが今回は僕とルーラとネメシスの3人だけでやる、いいね?」

軍団長は跪き

「仰せのままに」

そしてジンは立ち上がる

「今回の戦争に大義なんかない正義もない、ただ試そう包丁を研いだ後の試し切りのように誰になにを言われようとも…楽しもう!」

ジンは笑う


全員が跪き

「「「ジン様の御心のままに」」」

そんな部下の忠誠心に満足しながらジンは座り直し優雅に紅茶を飲み始める。



         *



「動きませんね」

隣に立つ副官がポツリとそう言った。


ランカンと隊の副官は相手陣地を見ていた。

「あぁ相手は何を考えているんだ?」

ランカンは素直に疑問を吐露する

開戦の鐘はとっくになっているが相手は動かない

エンファはランカンの進言によって鶴翼の陣で相手を待ち構えている。右翼10万、左翼10万

中央12万の計32万の大軍だ。

(作戦を考えている?この大軍を前に攻めあぐねているのか?)

そして隣に立つランカンの副官が疑問に答える。


「相手の軍は約3万人程です。おそらくルーゼ様を倒した強者もいるでしょう、その場合この戦力差なので攻め方は慎重に考えないといけないからではないでしょうか」

「そうだな…あの騎士たちはどうだ?」

「武具はおそらく魔法付与がされているでしょうしかも一級品の。中身をそれに見合うものなら3万だとしても恐るべき軍団です」

「では…」ランカンが言い切る前に副官が叫ぶ


「ランカン様!動き出しました…」

目線を相手の軍に向けると軍が二つに割れて、道の様になったところに3人の人影が見える。


遠視の魔法で見ると、右から金髪褐色の女、長い白髪をまとめた仮面をつけた男、腿まである金髪の女の3人だった。


「中央にいる仮面の男がアード殿の言っていたジンという相手国の王か?」

「その可能性は高いと思われます。事前の文書にも書かれていましたしアード殿との証言とも一致する風貌です」

前に出た3人が行動を開始した時。戦は終わった。


そして…


蹂躙となる…





ジン、ネメシス、ルーラの3人は騎士たちの間を歩く

「ハッハッハ!ジン様やっと暴れられるのか⁉︎」

「暴れてもいいけど今回は一撃だけだよ」


「そうですよネメシス、今回は周辺諸国に力

を見せつけるための戦いなのですから」

「こんなの戦いじゃなくて遊びの間違いだろ!」


3人は騎士たちの道を歩き終える

「すごい人数ですね」

「力量的に見ても騎士団だけで良さそうだけど、頑張ろうか、右翼はネメシス、左翼はルーラにお願いしよう」

「わかった!」

「承りました」

「当然中央は僕がやる…じゃあ二人とも始めてくれ」

その声とともに蹂躙が始まってしまった…





右翼を任されたのはネメシス

ネメシスは手首を手刀で切り、切り口から大量の血を地面に流す。

「我が血は地獄へ通ずる門を開く…」

その言葉の後に寅・巳・未・牛・酉・亥の印を結び

勢いよく合掌する

破滅の門ゲート オブ ルイン!!!」

その言葉と共に右翼軍を囲む様に巨大な牙が無数に現れる。


誰もそこから出ることはできない


そして始まる


牙のある範囲に穴が開く、まるで口のように開いた。


穴の中には無数の牙が生え蠢いている。

そこに人が落ちればどうなるかは自明の理

人々の恐怖と苦痛の悲鳴と叫び声が響く

「助けて!」「痛い!」「あぁぁぁあああ!!!」

などが響くまさに地獄。

そして後に聞こえるのは肉が絶たれ潰れる音


グチャグチャグチャブチッブチッグチャグチャブチッ

グチャブチッグチャブチッグチャグチャブチッグチャ


血が飛び散り、肉が飛ぶ

その音と恐怖の悲鳴を聞きながらネメシスは笑っていた。

そして五分もたたずにエンファ多種族共生国家

右翼約10万人は血を残して消えていった…





左翼を任されたルーラも行動を開始する。

ルーラがが膝をつき祈り周囲を浮遊する杖が等間隔でルーラを中心に円状に浮遊し続ける。

するとルーラの背後に巨大な神々しい光を纏った十字架の形をした魔法陣のようなものが浮かび上がる。

神聖なる憤怒ホーリーラース


その言葉と共に魔法陣が散り散りに割れて光の粒子となる、そして雲が割れ神々しい光と共に神の手とも言える巨大な手が無数に雲の割れ目から手を取ってほしいと言わんばかりに伸ばしてくる、それは美しかった。


共生国家左翼10万は誰もがその美しい光景に目が離せず手を伸ばすものもいる。


自分たちが光の粒子になって消えているのにも気づかずに…

ただただその死を望んだのだ。


神を怒らせた罰に死を神聖なる死には安らぎを…そして左翼10万は全員光の粒子となり痛みなく消えていった…





右翼と左翼、右翼は地獄を左翼は天国を表したかのような光景に脳が追いつかない中央軍

そして、少しづつ脳に染みた頃悲鳴と恐怖の叫びが聞こえる、全員が逃げようと行動するが12万が同時に逃げようと自分だけでも生きようとするため、なかなか進まない、それを哀れみの目で見つめる3人。

そしてジンが動き出す。



          *



中央軍では

「わたしのせいしゃない!こりぇはなにかのましがいだ!」

全力で馬を捨ててまで走るアード

「わるいゆめだ!そこほとけ!」


五老公のアードは右翼と左翼の全滅に目を背けたかった。だが真実だと知り、叫びながら逃げ出している慌てていて呂律がまわっていない。


だが全てはこの時点で終わっていたのだ…



  * 



一歩前に出たジン

そして一言

「…死ね」

たった一言それだけだ。


彼は独自魔法真実の死を無詠唱で効果10倍して唱えた。

それだけで中央軍約12万がまるで糸を切られた操り人形のようにバタバタ倒れていく。

たった1人を残して…


《ONLY WORLD》の魔術などは12の階梯に---調査によりこの異世界も同様に---分けられる。数字が高ければ高いほど効果が強い(一部例外を除き)のだが、彼らが使ったのはある一定の以上の者がいくつか持つ特殊スキルと独自オリジナル魔法である。


そして、プレイヤーや運営から公式チートと呼ばれ、《ONLY WORLD》のプレイヤー人口1億人越えの数%にも満たないレベル100を「限界突破」しているプレイヤーで数人しかいない最高レベル300に到達している

ジンが弱いわけもなく---因みに都市長のレベルが約200〜250ぐらい---この有り様だ。


「面白そうな奴を残しといたから行こうか」


これから散歩に行くような軽い口調で言う。

3人は5分ほど歩くと目の前に1人の獣人の男が剣を大地に突き刺し立っていた。


そう、その者こそエンファ多種族共生国家

《五英傑》第一席「獣王」ランカン


そして、2人は相対する

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