第五話「少年の決意」

エンファ多種族共生国家首都《モータレーション》の元老院

「ではアード殿の言う通りファウストと自分たちを国と主張する者達から使者が来てこれを置いていったのだが内容は…」

その内容は簡単にいえば共生国家が不当に攻め占領した国トワイロスの王女の要請に従い首都を奪い返すと書かれていた。


「ではアード殿あの地に行った感想は?」 

アードは立ち上がり胸を張ってこう言った

「大したことありませんな!」 

「ほぅ大したことないと?」

「えぇ、まぁ財力と個人戦力はあるようでしたが軍が見当たりませんでした」

アードは嘘をつく浮遊都市のことなどを話さず過小に話したのだ。


それは彼の《五老公》としてのプライドからか…

それとも、ただの嫉妬か。


「そうですか軍がないなら私たちが誇る軍で攻めれば勝てると言うことですな」

「そう簡単に行くかは分からんぞ、その個人戦力もどの程度の強さか未知数だ」

といろいろな議員が討論する。そこにパンッと手を鳴らしたのはアードと同じ《五老公》のスエーズだ。


「みなさん、いくら個人戦力が強大でも数の暴力は強大です。ねぇランカン殿」

全員の視線がランカンに集まる

「まぁそうだな私でも七千人を相手にするのが限界というところだろうか」

スエーズが立ち上がる 

「このように我が国一の実力者もできて七千。なら元トワイロスの国民を徴兵して我が国の騎士も動員すれば三十万は硬くないでしょう」

「「おぉ!!」」

「では戦地はトワイロス近郊の平野ですかな?」

「あそこなら軍の配置がしやすいですな」

そしてスエーズが立ち上がり

「では、我が国に立ち向かう愚か者に鉄槌を、と言うことでいいですかな」

「「「意義なし」」」

全議員の承諾がおり、ファウストとエンファの二国の戦いが決まる

それを静かにランカンは見ていた…



          *



元老院の地下のある部屋では…

「では戦争は決定事項なのですか⁉︎」

「あぁそうだ、私たちにはその選択しかないようだ」

「ミレイには連絡がつかず、戦争が始まるなど。帝国はいいのですか⁉︎」

「帝国とはまだ戦争に発展していない、なら攻めやすいよう森を手中に納めるつもりなのだろう」


そう現在五英傑の1人ミレイは実質行方不明となっている部隊が消え本人とも連絡がつかない

戦争から逃げたと誰もが思っている。

「今回の戦争は私が出る」

「なぜ⁉︎ランカン様はこの国の守りの要なのですよ!」

アークは勢いよく立ち上がり叫ぶ。勢いよくたったため椅子が倒れている

「今回議員どもは相手を下に見ている、もしかしたら底知れぬ強者がいるかもしれない」

「で…ですが…」

「それでも私が出ないといけない。この国のため国民のために危険は未然に防がないといけない」

ランカンが立ち上がりアークに歩み寄る。

「ですが!」

アークは拳を握り込み机を叩く。手からは血が出ていた。

「アークお前は抱え込みすぎだ今夜付き合え」

「はい…」



          *



エンファの路地裏にある隠れた飲み屋がある。その扉が開き2人の男が入ってくる

「どうだアーク。いい店だろう私のお気に入りの場所だ。マスターとは顔見知りでな少し値段を融通してもらっている」


そして、ランカンが小声で

「秘密だぞ」

「わかりました…」

そんな冗談も今のアークは反応に困るだけだった。

2人はカウンター席に座る

「マスターいつものを頼む。アークはどうする」

「じゃあ同じものを」

マスターは静かに頷き準備を始める


「アーク…なにがそんなに不安なんだ、俺が出てもお前がいるだろう」

「いえ私にランカン様の変わりは務まりません、大切な者すら守れないんですから」


「…」


「今まで努力してきました。あなたに追いつ

こうと」


「…」


「あなたのようにはなれない…」


「…」


マスターがジョッキを2人の前に置く

「じゃあやめてしまえ」

「えっ?」

そのような言葉が投げられるとは思っていなかった。

アークは驚きで間の抜けた表情になる


「私はお前のような者を部下にした覚えはない、弱音を吐き続けているだけだ」

ランカンがアークを見据える


「お前は何がしたい」


「私は…」

「弱音を吐くことか?後悔することか?それとも悲しき過去を嘆くことか?」

「そ…それは」

「違うだろ五英傑第二席『瞬斬』のアーク。なんのためにここにいる?」


「…」

「それが分からないならお前にこの国の英雄、《五英傑》を名乗る資格はない。ただ私の目が節穴だっただけだ」

アークはその言葉を聞いた瞬間立ち上がり

アークは酒を勢いよく飲み干す。

そしてコップを机にドンッと勢いよく置き


「この国を!民を守ることです!!!」


「そう言うことだ。敗北を恐れるな。腕を失っても足を失っても、それは敗北ではない。真の敗北は…」



「光を失うことだ」



アークは身を振るわす

「どんな時も友を仲間を守るべきものを忘れるな」

「はい!」

勢いよくアークが立ち上がる

「いい顔だ。この国を任せられるな」

「はい」

「じゃあ最後にいいところに連れて行こう」


                              *



ランカンとアークが訪れたのは城壁で一番高い塔だった。

その最上階

「綺麗ですね」

「そうだろう…戦いの前はよく来るんだ」

そこには美しい夜の街が広がっていた月明かりが美しく街を照らすそれに呼応するように

街の明かりが魔法のものも本物の炎も一緒に揺らいでいる。まるで夜空のようであり。空にも星々が煌めき

まるで夜空を写す湖の様に綺麗な景色だった。

「これがアークが守る国だ」

「はい」

アークは嬉しくなる

「もし俺が帰ってこなくても国を守ることだけ考えろ」

「はい」

(ランカン様がこの国を守るために戦いに出る、何かあっても自分は国を守ることだけを考えろ。ランカン様を止める行為はランカン様や戦争に向かう兵士たちの覚悟に泥を塗る行為だ)


2人は向かい合う

「この私!《五英傑》第一席ランカンが命ずる!第二席アークよ!」


「私がいない間の首都の防衛に尽力せよ!」


アークは跪く


「拝命いたしました!」


この時、夜空にいくつもの流星が流れる。それは私たちを送り出すようであり勇気づけるようであったが

夜空から星が消えていくという何か暗喩を感じてしまう流星だった…

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