第三話「新たな住民と混乱」

ライラは困っていた。新しい住人との事に…

ついこないだ、ファウスト様が新しい住人を連れてきた。


《五英傑》第三席「閃爆」のサラ。爆裂術式と光魔術、そして華麗な剣術を組み合わせた騎士。超のつく有名人だ。


エンファ多種族共生国家の最高戦力。なんでも、国の作戦で闇の森を抜ける必要があったがファウスト様の部下と会い、同僚が先走り同僚とその部下は全滅。抵抗したが叶わず。

情報を話して服従したらしい。


その同僚も超有名人五英傑第五席「無界」のルーゼ。

音を立てずに相手を殺す、正面戦闘も暗殺も得意とする斥候だ。

(そんな方達が全滅!?それはエンファ多種族共生国家への宣戦布告になり得ないのでは?) 

そう思ったが、話を聞くとファウスト様達が警告した上で攻撃したため共生国家側に非があるみたい?だった。


「あの方々は神話の人物達よ。それを統べる王ジン・ファウスト様はとても神々しかったわ。敵対した我々にすら慈悲をお与えくださったのよ」

「えっと…サラ様。それは、よかったですね」 


こんな風にファウスト様の優しさや力に当てられて彼女らの中でジン様の神格化が進んでいる。

さっきもファウスト様が来て『あとは、よろしく。ライラにはこの集まりのまとめ役を頼むよ』と言ってサラ様達を置いて颯爽と去って行った。


私はすでにファウスト様に匿ってもらっている立場だから呼び捨ては信用されたと思えばまだいいのだけど…

(まとめ役なんて聞いてない!!)

ライラはジンには感謝し尊敬しているが、せめて事前に相談が欲しいと思ったのだっだ…

ちなみに、この後サラ達がライラを聖女としジンを唯一神とする宗教を作ろうと言い出すのだがライラは丁重にお断りした。


                             *



浮遊都市のジンの執務室にジンの他5名の男女がいた。

ジンの後ろに立つのは都市長統括アルトリア。そして、もう1人

都市長兼執事長「龍神」のガリシュ。


「龍神」ガリシュ

少し長い白髪をオールバックにして後ろで結った初老の老人であるが本当の姿は紛れもない龍である



そして、ジンの机の前に立つのは五英傑を相手にした。3人だ。



「獣神」レイラ

猫のような狐のような尖った獣耳に褐色の肌に白い紋様が描かれている、髪は短く切られてボサボサ、民族衣装のような際どい服を着ている。様々な獣の頂点


「鬼神」ヤマト

赤黒い髪に一本のツノ、赤鬼を彷彿とさせるが顔立ちは整っている。和服を見に纏うが戦闘時は甲冑だ。


「蟲神」ガルザム

人型の虫という言葉がぴったりの見た目をしている。現在は人の顔が見えているが虫の特徴が所々ある。戦闘時は顔まで赤黒い外骨格を身に纏い赤い節が見えている。



そんな3人には今回のことで話をするために集まってもらった。

「まずは、今回は手伝ってくれてありがとう」

「ジン様!お礼の言葉なんていらないぜ!支えさせてもらうだけで十分だ!」

「右に同じく。ジン様も私たちに気遣いは無用です」

「我らは感謝されることなどしておりませぬ。当たり前のことしたに過ぎません」

レイラ、ヤマト、ガルザムの順に答えてくれる。


「そう?ならいいや。でも感謝の気持ちは本心だからね。じゃあ本題に入ろう。五英傑はどうだった」

「弱かった!」

「期待外れでした」

「我も同意見です。純粋な技量だけなら我が国の騎士団の大隊長と中隊長の間ぐらいでしょうか。武具によっては大隊長に少し近づく程度です」


(意外と弱いな、いや他の国はまだ隠し球を持っている可能性もある。油断は禁物だね)


「3人ともありがとう」

「「「ハッ!!!」」」

そこで、レイラが思い出しように話し出す。

「ジン様!俺の知り合いがこの世界にいたんだ!」

「えっ、そうなのかい?」

「あぁ、あの子猫か」

ヤマトもその話に食いつく


「そうだ、あれは俺の眷属のようなものだ。この世界では霊獣王と崇められているみたいだったな!」

(じゃあこの世界と《ONRY. WORLD》の世界にはつながりがある?)

「ありがとうレイラ」

ジンに笑顔を向けられ

「う…うん、そんなことないぞジン様」

照れたようにレイラが言う

そして3人は退出して行った


「では、相手はどのように出ますかねジン様」

「そうだねアルトリア、楽しみだ」



         *



エンファ多種族共生国家・首都《モータレーション》の元老院にて

逃げ帰った《無の足》が報告をしていた。

「それは本当か!!」

「五英傑が2人も負けて1人は死亡もう1人は行方不明!?」

「なんなのだ!この謎の3人組は!」

「この者たちの主は闇の森を支配していると言っていました」

「闇の森を?」

「バカな!あそこは我らが領土だぞ!」

「まぁ冷静になりたまえ」

「ですが、スエーズ殿!」


そう呼ばれたのは元老院の中でも大きな発言力を持つ《五老公》と呼ばれる5人のうちの1人スエーズだ。


「まぁ待て、今回の件少しはこちらに非があるのではないか?」

「なぜでしょう」

「支配云々に関しては置いておて、相手は先に交渉しようといていたらしいではないか。危害を加えないと。それを独断専行して五英傑のルーゼ殿が攻撃した。これは、相手からしたら敵対行動・宣戦布告のようにとられたのではないか?なぁ、ランカン殿」

「おっしゃる通りです。今回のルーゼの不祥事、謝って済むものではありません。それで私たちにどうしろと?」

「五英傑全員と軍を動かしたらどうだろう」

スエーズとランカンの話を聞いていた議員が提案してくる


「少し待ってほしい。今回の相手は五英傑と直属の部下を倒せる相手ですよ、少なくてもルーゼは死亡、サラの生死は不明。ルーゼなど相手の攻撃に反応もできてなかったそうです。攻撃に出れば無駄に死人を出すだけでしょうし、帝国との二正面戦争になるのは避けるべきでしょう」


「そうですな、少し早とちりしていたようだ」

「ではここは、まず謝罪も込めて使者を送るべきではないでしょうか?」

「そうするべきだな、情報収集も含め無の足も同行させよう。無の足には、その主人とやらの住処の調査をさせろ」

「危険ではないですか?」 


何人かは、その行動がバレたら必ず敵対することになると思い発言していた。


「大丈夫だろう、無の足は我が国が誇る秘密特殊部隊だぞ。そんなヘマはせん。しかも五英傑を下す強者がそんなにいるとも思えんしな」


ランカンはなぜこんなにもスエーズは物知り顔なのか疑問に思うし無の足に潜入させるのは反対だった。


「それは危険すぎます。その強者たちが気付くかもしれないのですよ」

「では、序列上位に準ずる上位陣に行かせれば良かろう。そもそも今回は五英傑の失態ですよ。しかも、あの者達は我が国土を自分たちの土地だと主張している。そんな無礼な者達に対する礼儀など形だけで十分でしょう。バレても知らぬ存ぜぬでとうせばいい、頭の中など読めないし他国の使者を拷問にかければ周辺諸国からの心象も悪くなる」


ランカンは言い返せず頷くしかなかった。


「では護衛として部下をつけましょう」

ランカンにはそれしかできなかった。


「みなさん、それでよろしいですね?」

議長の一言に全員がうなづく

「ではこれにて閉会!」



          *



元老院の地下のある部屋にて、再び五英傑が集まっていた。

ミレイとアークは他の2人がいないことに不安を覚える。

「まず、2人に言おう。サラとルーゼがやられた」

2人は驚きを隠せない。それもそのはず、あの2人はこの国の最高戦力。簡単にやられるような者達ではない。


「付け加えると、ルーゼは死亡、サラは行方不明だ」

「行方不明?」

「そうだ、ルーゼは死亡確認されたがサラは確認していない。ちなみに、ルーゼは首を落とされ瞬殺だったそうだ」

2人の開いた口が塞がらない


「2人を倒した者達は森を支配する者の部下らしい」

「では私たちは、それほどの力を持つもの達を怒らせた可能性が高いと言うことですか?」

「そう言うことだアーク。なので本国は謝罪の使者を送ることにしている、その護衛を出すことになった」

「では私が選抜しましょう」

アークが立ち上がる


「頼めるか?」 

「はい。ランカン様は元老院の対応がありますし。ミレイは、このような仕事は雑ですからここは消去法で私が適任ですよ」

「ありがとうアーク」

「では、私は準備に取り掛かります」

アークはそう言って部屋を出て行った。


「たいちょ〜何隠してるの〜?」

「やはりミレイに隠し事は聞かないか」

少しの静寂の後

「本国はかの者達を調査させる部隊も送るらしい」

「危なくない?」

「そうだ、ルーゼ達を倒す者達に敵対行動を取り、更には謝罪の使者の裏では調査など危険すぎる」

「元老院は?」

「序列一位を出すらしい」

「クウを?」

「あぁ」


そこで場が静まる


「それは隊長も言い返せないか」

「まぁ、クウがバレないことを祈るしかないな」

「まぁわたしは危なくなったら逃げるけどね〜」

そう言いながらミレイが立ち上がる

「じゃあ、ばいば〜い」

手を振りながらミレイが部屋を出ていく


「あいつに愛国心はないのか」

そう言いながらランカンは苦笑する

「この結果は神のみぞ知るか…それとも神を怒らせたか…」


ランカンの言葉は異様にその部屋に響き渡るのだった


                             *



ジンの執務室にて

「ジン様、共生国家から謝罪のための使者が来るそうです」

「やっとか」

「じゃあアルトリアは歓迎の準備をしてくれ」

「承知しました」


「さぁ…始めようか」


これが、建国710年のエンファ多種族共生国家の終わりの始まりだった。

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