第24話 〈不確定要素〉は主人公ではない
話。先生。別れ。帰宅。人間。主人公。
先生は後で話を聞くといっていたので、多少は身構えていた。
数時間取られてもおかしくない。何せ、急に学校中の人たちがおかしくなったのだから。
教員はこう考えるだろう。咎峰くんも、この大規模な騒動に巻き込まれているのか? と。
あながち間違いではないが、少なくとも彼が倒れているのはイフのせいであって、この騒動とは少し関係が無いところにある。こういった、生徒が倒れるという滅多に無い事件でも、今ならサラリと流されてしまう。
ある意味、〈群青システム〉様様なところはあるだろう。
結果、十分もかからない事情聴取だった。
発見時の状況、過去の事例、原因。主に聞かれたのはそれぐらい。発見時の状況と、過去の事例だけ正直に話して、原因はわからないと言っておいた。
アルトからしたら何もわからないだろうし、私だけ「ネットで会ったイフっていう人がやったって言ってました」って言っても、先生は面倒臭いと思うだけ。
今は対応しないといけないことがたくさんあるのだから、これは私のやさしさ。
秘匿という名の、優しさだ。
なんて思っているうちは犯罪者の自覚が無いことを示す。
占いも、霊媒も、正しく使えば人を救うが、間違った使い方をしてしまうと人殺しにもなりうる。百に近い数字というのは、人を洗脳するのにも役立ってしまう。
十分気を付けたうえで商売をしているのは両親含む肉親たちで、それに比べて私はただの阿呆でしかない。
これがバレたら、あの人たちは私に目を向けてくれるかしら。
アルトは別室で先生に事情聴取されていた。
一応、まだ事情聴取されているのかと思いしばらくアルトを待ってみる。しかし、人のいる気配はしない。上手く逃れたのだろうか。私より早く終わって帰ったのだろうか。
考えている暇があるなら、早く靴箱にでも行って確認した方が良い。
靴箱に向かおうと自らの足を動かす。
彼と一緒にいたせいか、まだ抜けない本当の自分。どうせ他の人と話すときにはちゃんと切り替わってくれるのだろうけれど、少し不安が残るのだ。
「っ……行かなきゃっ、行かなきゃ」
背後から足音も無く、同じ制服を身に纏った女の子が私を抜かしていった。
唯一聞こえたのはその子自身の独り言だけ。
どこかで見たことあるような黒髪でショートヘアの女の子。制服を崩さず、いかにも優等生な外見。
こればかりは偏見だが、ああいうのを見ると自分と同族なのではと思う。
優等生の皮を被った人。本性を隠した人。優等生という皮はどんなものでも覆い尽くして隠してしまう。
優等生は面白くない。ただ、誰の目にも「賢く問題を起こさない子」として映っている。それ以上にその人を映さない。皮肉なことに、優等生は優等生としか見られない。
「便利だよね」
もうあの人には聞こえていない。もうどこかに行ってしまった。
あの人もきっと〈群青システム〉に狂わされた人なのだろう。いや、それは失礼か。
〈群青システム〉によって、主人公にされた人間と言った方が正解だろう。
私達、〈不確定要素〉は〈群青システム〉の影響を受けない。
つまり私達は主人公になれない。
ひとつ、物語があるとしたら。
きっと私達は悪役。
この学校を狂わした悪い人。
これもきっと、配役なのだろう。
ふつふつと沸きあがる感情が一体どこから来て何を意味するのか分からなかった。
いつの間にか足は進むのをやめて、ただ廊下で一人突っ立っている。
夕焼けが私を刺す。影を生み出す。
「あ! シオリ、いたんだ。こんなところで立ち止まってどうしたの?」
「……アルト」
後ろからアルトがやってくる。なんだ、まだ事情聴取を受けていたのか。
「大丈夫? 何か嫌なことを聞かれた?」
「いいや、特には……大丈夫」
「そっか。何かあったら相談してね」
「うん」
何事もなかったかのように振舞う私は一体誰だろう。
この誤魔化し方は偽物なのに、どうも心は本心だ。
「そういえばさっき先生が言ってたんだけど、ヒイラギが病院で目を覚ましたって」
「そう。でもしばらくは学校に来れない……よね?」
「原因がわからないからね。多分そうだよ」
……こう、本当の理由を知っていると少々後ろめたい。
イフの手刀が決まった、というイフの主張。事実なのか嘘なのかわからないのに、私は知った気になっている。この情報の少なさで本人の主張を無視するわけにはいかない。知っているということにして、後ろめたさを飲み込もう。
「今日はそのまま解散かな? どうする? 何か用事ある?」
そうアルトが問う。頭の中を巡らせるが、特にこれ以上用事はない。
と、思っていたがイフに依頼されたことをできないまま今日を終えようとしていることに気付いた。
「パソコンの〈群青システム〉にログインして確認してないけど……」
「んーでも、パスワードをまだもらってないしやらなくていいんじゃない?」
そうだ、アルトはまだイフに会っても無いし、パスワードを貰っても無いのか。
ああ、いつもだったらこんな空回りはしないのに。疲れているのだろうか。
「じゃあ、もう帰る。さようなら」
「うん。バイバイ」
共に手を振り合って、それぞれの行くべき先に足を向ける。
何かやることがったのか、アルトは靴箱とは別方向に向かって歩いて行った。
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