時は金なり

シカンタザ(AI使用)

時は金なり

「時は金なり」ということわざがあるが、これは嘘だ。そんなことはない。時間とは限りなく貴重で、お金よりはるかに尊いものだ。

そして、その貴重な時間をさらに無駄に費やすような人間がいる。それは私である。

「えーっと……..、どこから話せばいいかなぁ……」

私は今、大学のカフェテリアで、友人と向かい合っている。テーブルの上にはルーズリーフの束が置いてある。

「あのさ、僕が言いたいことはつまりね、君もわかっていると思うけど、僕たちってもうすぐ卒業するわけじゃん?」

そうなのだ。私たち3年生にとって、この春休みというのは人生最後のモラトリアム期間なのである。

「だから、そろそろ将来のことを考えないといけない時期だってことだよ」

「うん。そうだよね」

私の目の前にいる友人は、私の幼なじみであり、かつ恋人でもある。名前は橘裕也という。ちなみに名字は珍しいほうではなくて、よくある名前だが、名前だけは普通ではない。

彼の本名は、橘裕二。「ゆうじ」と読むのではなく、「ひろや」と読む。彼は男でありながら、女の名前を持っているのだ。もちろん親がつけたわけではなく、生まれたときからこの名前だったらしい。

なぜこんなことになったのか? 私が彼に聞いたことがある。そのとき彼はこう答えた。

「うーん……なんでだろうねぇ。なんか気がついたらこういうふうになってたよ」本人にもわからないらしい。ただ、どうせならかっこいいほうがいいと思って、そのまま使っているとのことだ。

まあ、確かに彼が自分で考えたとは思えない名前だし、そういうものかもしれない。

それにしても、名前が変だと本人も苦労しているのではないかと思ったが、別に本人は気にしていないようだ。むしろ自分の名前を気に入っていない人のほうが多いんじゃないかと思う。

「で、将来についてだけどさ……。やっぱり僕たちも大学を出たら就職しないといけないよね」

「そうだね」

私も彼も、大学に進学した時点で、当然のように卒業後に就職するものだと思い込んでいた。しかし、世の中には例外もいるということを、私たちは最近知ったばかりだ。

「それでさ、僕は銀行員になるつもりなんだ。君も同じ業界を志望してるんだっけ?」

「ああ、うん。一応は……」

私は正直なところ、まだ将来のことについて迷っていた。大学に入ったときに漠然と銀行員になりたいと思っていたのだが、最近はちょっと揺らいでいた。その理由は、今年の春休みにある出来事が起きたからだ。あれは2月の中旬のことだっただろうか。ある日、私がいつも通り大学で講義を受けていると、携帯電話にメールが届いた。差出人は高校時代の友人だった。内容は次のようなものだった。

「久しぶり!元気にしてるか?突然で悪いんだけど、俺、結婚することになったわ」

「え!?」

あまりに唐突だったので驚いた。高校卒業以来会っていなかったので、まさかそんなことになっているとは思わなかった。すぐに返事を送った。すると相手はすぐに返信してきた。どうやら結婚した相手の女性は大学時代に知り合った人で、ずっと付き合っていたらしい。結婚式は4月に行う予定だという。

「いや~、実はいろいろあってさ。向こうの家族とも話し合ったりして、結局そうなったんだよ」

「へぇ、そうなのか」

「それで、お前もよかったら来ないかって言われてるんだけど」

「え?いいの?行ってもいいの?」

「おう。お前さえ良ければ是非来てくれよ」

「わかった。じゃあ行くよ」

「おお、ありがとうな」

というやり取りがあって、私は急遽友人の結婚式に行くことになったのである。

「それでさ、その友達っていうのがまた面白いやつでさ。あいつ、銀行の同期と結婚したんだけど、これがもう本当におもしろくて……」

彼は興奮気味に話をつづけたが、私は途中から話の内容がほとんど頭に入ってこなかった。なぜならば、友人が結婚した相手が私の知り合いだということに気付いてしまったからである。しかも、式場では私の隣に座っていたのだ。私は内心ヒヤヒヤしていた。もし彼が私のことに気づいたら大変だと思ったが、幸いなことに気付かれなかったようだった。

そして結婚式が終わったあと、披露宴のときに、彼の友人から話しかけられた。

「あれ?ひょっとして君、橘裕二くんじゃない?高校のときの」

「はい」

「やっぱりそうだよね!懐かしいなぁ。僕だよ僕、覚えてない?ほら、同じクラスにいたでしょ」

「……」

彼はそう言ったが、私には思い当たる節がなかった。私が黙っていると、彼は少しがっかりした様子で、「そっか、仕方ないか」と言った。

「あのときは眼鏡かけてたもんな」

「ああ!」

そこでようやく思い出した。彼は私が高校3年生のとき、クラスメイトだった。そのときも眼鏡をかけていて、髪は短かった。しかし、今は髪を長く伸ばしていて、眼鏡はかけていない。

「でも、どうしてここにいるんですか?」

「僕?僕はね、この大学の卒業生なんだよ」

「え?そうなんですか」

「うん。といっても、もう5年くらい前だけど」

「そうですか」

「橘くんはなんでここに来たの?実家が近いからとか?それとも就職活動のために東京まで出てきたのかな?」

「いえ、そういうわけではないですけど……」

彼は私の隣の席に座っていた人だ。ということはつまり、私が彼と同じ大学に入学したということだ。もちろん、入学したときはまったく気が付かなかった。

「まあいいか。ところで、橘くんって何学部なの?経済学部?それとも文学部?どっちにしても、結構難しいところを選んだよね」

「あ、はい。そうですね。経済学部です」

「へぇ、そっか。じゃあ僕の後輩になるわけだ。僕は経済学専攻だから」

「あ、そうなんですか」

「うん。あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は……えっと……、なんていうんだろう。忘れちゃったよ」

「え!?」

「いや、まあ、よくある名前だからね。気にしないでよ」

「はぁ」

「それよりさ、せっかくこうして出会ったんだし、一緒に飲みに行かない?僕もちょうど仕事終わったところだし」

「うーん……。まあ、いいですよ」

「よし、決まりだね」

そんなこんなで、私は彼と居酒屋に行った。彼はお酒が好きらしく、ビールをたくさん飲んだ。私はあまり強くないので、ほとんど飲んでいない。それでもかなり酔っていた。

「ねえ、君って彼女いるの?」

「いましたよ」

「過去形なんだ」

「別れましたからね」

「へぇ、どんな子なの?」

「普通の子でしたよ。ただ、ちょっと変わってるところがありまして。たとえば『私は半端者なんだ』って言ってたり、『私は半分なんだ』ってよくわからないことを言ったりしてたんですよ。それがちょっと気持ち悪かったんで、それで別れた感じですね」

「ふぅん」

「でも、今思うとあれはどういう意味だったのでしょうか」

「どうだろうねぇ」

「あなたはどう思いますか?彼女は一体何を言おうとしていたのでしょう」

「う~ん……」

彼は腕組みをして考え込んだ。

「どうせなら、彼女に直接聞いてみたらどうだい?君と彼女の仲はもう終わってしまったかもしれないけれど、まだ完全に切れてしまったとは限らないし」

「なるほど。それは良いアイデアかもしれません」

「そうだろ。それに、きっと答えてくれるはずだと思うぜ」

「わかりました。早速電話してみます」

「おう、頑張れよ」

そして、私は彼女と連絡を取って、会う約束を取り付けた。私は緊張しながら待ち合わせ場所に向かった。そして、指定された喫茶店に入った。すると、彼女がやってきた。

「やあ、久しぶり」

「ああ、久しぶり」

「元気にしてたかい?」

「うん、元気だよ」

「そうか、よかった」

「……」

「……」

「とりあえず何か頼まない?」

「ああ、そうしようか」

私はアイスコーヒーを注文した。彼女はミルクティーを注文した。

「……」

「……」

沈黙が続く。

「えっと、その前に一つだけ聞きたいことがあるんだけどさ」

「なに?」

「君は今でも僕のことを覚えているだろうか」

「え?覚えてるけど……」

「そっか。覚えてくれていたのか」

「……」

「……」

「どうして急にそんなことを言い出したの?」

「いや、その、最近変な夢を見るんだよ」

「夢?」

「そう。君が出てくる夢。でも、君の姿は見えない。いつも声だけが聞こえるんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「ああ、そうなんだ。そして、そこで言うんだよ。『私の半分はどこにある?』って」

「そうなんだ。ちなみに、なんて答えるの?」

「それがわからないから困っているんじゃないか」

「それもそうか」

「君の意見を聞きたくてここに呼び出したんだが……」

「まあ、なんとなく予想はつくけどね」

「え?そうなの?」

「まあ、あくまで想像だけどね。例えば、銀行とかじゃないかな?ほら、日本だと紙幣には全部印刷されているじゃない。だから、日本銀行が半分みたいなイメージがあるけど、実際は違うでしょ?」

「確かに……」

「つまり、そういうことだと思うよ」

「なるほど。ありがとう」

「いえいえ」

「それじゃあ、またどこかで会えたらいいな」

「そうだね。じゃあこの辺で」

私と彼女は別れた。

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