🏫 最終決戦の話
夏休み最終日。
夏休み最終日。
前日の夜は遅くまで勉強に明け暮れていたため、起きたときにはもうすでに昼に近かった。
翌日からは学校が始まる。だから、生活リズムを整えておかないといけない。
俺は脳内で反省し、だいぶ遅い軽めの朝食をとった。
次の日の登校を意識している時点で、今日が夏休み最後の日だってことは強く感じ取っていた。
おまけにそれが高校生活最後の夏休みだってことも否応なく認識させられた。
それでも、特に何か変わったことをしようなどとは思わなかった。
節目には必ず何か思い出や記念を残そうというようなアグレッシブな生き方をしてこなかった俺は、どんなときだって密やかに終わりの日を過ごしてきたのだ。
むしろ、この年は夏休みの間もなんだかんだ学校に通っていたせいか、長期休業が終わるたびにいつも感じていた憂鬱感もそれほどなく、明日から学校が始まるという事実にも淡々と向き合えている気がした。
あるいは俺にとって、高校三年生の夏休みは千歳と海に行った日を最後に終わったのかもしれない。
完全に吹っ切れたとまでは言えないが、気持ちは確実に前よりも大学受験に向けてシフトしていた。
これが受験生なんだ。
今更になって、やっと周りと同じようになれた心地すらあった。
でも、正直に告白するとそれほど行きたい大学というのもなかった。
模試の結果などを考慮し、家から通える国公立大学をとりあえず第一志望にしていたけれど、それもどこまで本気だったかわからない。
はっきりと言えるのは、何もわかっていなかったってことだ。
高三のときの俺の想像力など、どんなに贔屓目に見てもたかが知れていた。
入試の先のことなんて、何も考えちゃいない。
そこにどんな未来が待っていて、どんな人生を歩むことになるのかってことは、ほとんど何も見通せていなかった。
それでも、夏休みが終わるという事実を心のどこかで受け止めつつ、俺は最終日も黙々と机に向かって勉強していた。
そんな最中でもう一つ、俺の脳裏を駆け巡っていた事項がある。
千歳の追試についてだ。
説明していなかった点も含めて補足しておくと、赤点取得者が対象の追試は海に行った二日後に実施されており、結果がわかるのがこの日、すなわち夏休みの最終日だった。
今頃、学校では答案が返却されているのだろうか。俺は家にいながらその場面を思い浮かべていた。
人数は不明だが赤点を取ってしまった生徒が教室の席に座っていて、緊張した面持ちでテストが返されるのを待っている。そのうち一人が千歳皐月……のはずだった。
彼女は追試を頑張ると言っていた。二度と赤点を取らないように普段の勉強もすると言っていた。
それらの言葉に嘘はないと感じた。
それでもう充分だと思った。
だからこそ、俺は彼女に対して余計な干渉をするのをやめることにした。
もしも、千歳が追試で合格点を取れなかったら。
その先に待つ未来は俺にはわからなかった。自分の未来だってわからないのだから、他人のことなんてわかるはずもない。
結局、将来のことは俺には何もわからないのだ。
確かだったのは、この日千歳の追試の合否が判明したことと、俺が数か月先に合否が判明する試験に向けて勉強していたこと。
ただそれだけ。
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