🗻
暗くて険しい夜の山道をひたすら登っていく。
暗くて険しい夜の山道をひたすら登っていく。
右手、左手、右足、左足。
意識も視界もはっきりとしないけれど、なんとか前の人の進み方を記憶しながら自らの手足の置き場を決めていく。
岩に手をかけ、足を乗せ、それだけに全神経を集中させ、摑み、踏ん張り上を目指す。
しんどい道のりだ。あなたはついてきているのだろうか?
申し訳ないことなのだが今の俺には振り返る気力がない。登る以外に何かを考えている余裕が実はほとんどないのだ。
ついでに告白すると、空気が薄くて酸素が足りなくなるような高いところに行くと発症するあの病も、普段そういった場所に足を踏み入れることがない俺をずっと苦しめている。常に頭は痛いし、吐き気もしている。
だけどそういう事実に即したことばかり主張していたら、夢のある話を語ることなどできないから。
それではつまらないだろう。
だからたとえ現実的でなくても、そこにいるはずのあなたのために話がしたい。
そういえば覚えているだろうか。
俺が最初に提示した問いのこと。
ここまでだいぶ長い距離を進んできたし、そんな前のことは忘れてしまったかもしれない。
でも、無理に思い出そうと慌てて戻らなくてもいい。
いずれにせよ今からもう一度それについて話すので、改めて聞いてもらえればそれで大丈夫だ。
というわけで、先へと進みながら説明しよう。
まずは答え合わせ。俺が一番初めに持ち出した質問は……。
「朝焼けを見たことがありますか?」
記憶が蘇ってきただろうか。
続けて、俺はこう言った。
かつて、俺は『年下の女の子』にそう問われたことがある。
もし全然思い出せなくても、とりあえず覚えていることにしてついてきてもらえればいい。
もちろん、可能ならば記憶を遡ってもらっても構わない。
思い出そうとしてくれるのならそれだけで語り手冥利に尽きる。
まあそれはさておき、話を先に進めよう。
俺が最初に朝焼けの件について語り始めたとき、あなたには朝焼けの質問をした『年下の女の子』の正体がわからなかったはずだ。
でも、今なら十中八九予想がついているに違いない。
秘密にしておくことでもないので明かしてしまうが、俺に向かってその台詞を言ったのは他の誰でもない千歳皐月である。
高校時代の思い出話も、ここから先は夏休み終盤。
いよいよ、冒頭のあの問いをぶつけられるときが来る。
なぜ彼女はそんな質問をしてきたのか。正しい答えは未だに俺にもわからない。
だからこそ、もしよかったらあなたにも話を聞きながら考えてもらいたい。
もちろん語るのが俺である以上、俺自身の偏った見方が含まれているというのは確かだ。
けれども、それはここまでずっと付き合ってくれたあなたには今更といったところだろう。
改めてだけど、こんな独りよがりな話に興味を持ってついてきてくれたことに心から感謝したい。
この物語はいずれ終焉を迎える。
その最後の場面まであなたが一緒にいてくれたらいいなと俺は思う。
傍目には「なんのためにそこまで」と映るようなことかもしれない。
理由はうまく説明できないし、犠牲にしたものだってたくさんある。
それでも『俺たち』はそこに意味や価値があると信じて、もがいてあがきながらもここまで来た。
これはきっとそんな物語になるのだろう。
さあ、終わりまで続けようか。
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