「そろそろ時間ですね」
「そろそろ時間ですね」
人が集まった橋の上、隣で時計を確認していた千歳が呟く。
と同時に、何かが突然目の前の夜空に上昇した。
「あっ、始まった!」
彼女が気づいて声を発した直後、ぱっと強い光が輝いて円形に大きく咲いた。
――黄金の花火。
遅れて身体を震わせるような破裂音。高らかな周りの声。
「良い場所っぽいですね、ここ」
高揚感に包まれる夏の夜空の下で、千歳がこちらを振り向いてそっと内緒話をするように伝えてきた。
頷きを返すと、次の花火に備えてお互いに視線を夜の空へ戻した。
二発目。三発目。四発目。
夏祭りの夜に大小様々な光と音の共演。
広がって尾を引いて消えて。煙の残る空にまた上がって。
すごいとか綺麗とかそのたびに感想を漏らしていたが、それ以外にも胸を打つ言葉にならない何かがあった。
もう二度と同じ体験をできないのはわかっている。
だとしても、時を戻せないとただ諦めてしまうのは嫌だから。
俺は未だにその動かされた心の仕掛けを探している。
祭りの花火はあっという間にフィナーレを迎えた。
次々と怒濤の勢いで華開く小花火を飛び越えて、最後にふさわしい一際大きな花火の大輪が夏の夜空一面に咲き誇った。
輝く光。轟く音。最後の歓声。
だが、それらも余韻を残して消えていく。
思い出したように呼吸をしたら、そこにはもう何もなくなった。
それでも、俺と千歳が見た打ち上げ花火の光景は多分一生消えたりしない。
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