打ち上げ花火が間もなく上がるという時刻になって、俺たちは花火が見える位置へと移動した。
打ち上げ花火が間もなく上がるという時刻になって、俺たちは花火が見える位置へと移動した。
花火大会の会場はお祭りのメインストリートからは少々離れた河原にあり、屋台で散々食べ回り遊び回りした俺たちにそこまで向かう時間はなかった。
なので、開始時刻に間に合う範囲で綺麗に見える場所、歩いて数分のところにある大きな橋の上で見ることにした。
そこは鑑賞スポットとして一定の人気があったらしく、お祭りに参加していた人たちがぞろぞろと同じように集まってきていた。
それでも、迷わず早めに移動できたおかげかスペースにはまだ余裕があり、俺たちは正面に遮る高い建物などがない橋の真ん中付近のポジションを確保できた。
花火が打ち上がるまでのしばしの間、夜空を眺めていた隣の千歳に俺は話しかけた。
「始まったらあの辺りに打ち上がるらしい」
欄干に置いていた手を伸ばし指先で円を描いて解説すると、千歳はふうんといった声を漏らしつつ尋ねてきた。
「らしい、ってことは先輩もこの場所から花火を見たことはないんですか?」
「ない。そもそもこうやって準備万端で花火を見るの自体初めてだ」
俺は過去のお祭りでの行動を思い出しながらのんびりと語った。
「一度目は一緒に行ったメンバーが誰も花火のことを知らなくて、突然鳴り響いた音で存在を知ったくらいだった。あっちのほうで上がってる、いやこっちだ、って人混みを右往左往かき分けているうちに花火の時間が終わった」
「確かに知らないとそうなりそうですね」
「で、二度目は今年こそは見逃したくないというつもりでいたんだが、実際はみんなでお御輿とか見るのに夢中になっちゃって、気がついたらまた夜空に大きな音が鳴り始めて……」
「えっ、まさかの同じパターンですか?」
「いや、さすがに俺は二回目で打ち上がる場所もわかってたから、開始後すぐに見えそうな位置に向かうことはできた。ただ、辿り着いたときには人がもう大勢陣取っていて、建物の陰に半分隠れる花火を見ることになった」
小さな笑い声とともにこれまでの経験を話す。千歳も「何やってるんですか」と茶々を入れながら聞いてくれた。
本当のところ、俺はそれらの出来事を失敗だとは考えていない。まともに花火を見られなかったことは残念だが、俺が行った二度の夏祭りはその見られなかったことも含めて楽しかったと感じられるいい思い出だった。
だからこそ、もし三度目があったら。
今度こそはちゃんと打ち上げ花火を見たいと心の底から思っていた。
でも、実現するとは思っていなかった。
「じゃあ、今年ここから綺麗な花火が見られたらわたしのおかげですね」
「そうだな。認めるよ」
冗談っぽく自賛する千歳に合わせるように、俺は軽々しく同意した。
けれど、咄嗟に口にした言葉は割と真面目に本音だった。
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