🗻
ちょっとそこに座って休憩しようか。
ちょっとそこに座って休憩しようか。あなたもだいぶ疲れてきたんじゃない?
どうやら他にも休んでいる人たちがたくさんいるみたいだ。多分、ここはそういう場所なんだろう。
それにしても空気が薄くて息が苦しい。来る前から想像はしていたけれど、やはり現実はそう甘くはない。
風も強くなってきたし、何より寒い。意識もなんだか朦朧としてきた。
暖かい格好をして、こまめに水分を採って、しっかりと呼吸をして。
大丈夫? まだ先へ進めそう?
無理はしないでほしい。苦しかったらちゃんと言ってね。
さあ、もう一度深呼吸をしようか。
普段は息を吸ったり吐いたりすることをいちいち考えてやったりはしないけど、今はどうしても意識してしまうよね。
生と死は隣り合わせだ。ここにいるとそれを強く感じる。
決して忘れてはならないことだ。おそらくどんなときも。
それはそうと、こうして周りを見渡してみると同じように休んでいる人の様子が見えるね。
でも、みんなそれぞれ異なっている。持っている荷物にも疲れ具合にも差がある。
それだけじゃない。年齢も性別も人種もばらばら。人生観や思想だっておそらく違うのだろう。
共通しているのは、これから目指す先が一緒ってことだけ。
不思議だよね。俺たちが今ここにいること。
昔話の続きをしようか。
高校三年生の夏、俺は千歳皐月と出会った。夏空の下、名無しの公園でバドミントン対決もした。
今から話すのは、その熱戦が繰り広げられてから数日後の、ある平凡な一日について。
もしもこの話を聞いている人が大勢いたなら、そのうちの大多数が「どうして特別な出来事もないこの日をわざわざ選んだのか?」と疑問に思うことだろう。
でも、ここにいるあなたならばきっと気づくはずだ。
たくさんある候補の中から、俺があえてこの一日を切り取った理由を。
だけど、注意しておいてほしいことがある。
話をちゃんと聞いてくれて、理解しようとしてくれるあなたにだからこそ、忘れずに伝えておきたい。
俺がこの日を選んだ理由は一つじゃない。そう一つじゃないんだよ。
陳腐で何もない一日。
そう思っていた一日の中に、あるいは本当にそうであったかもしれない一日の中に、今日に繋がる光明がたくさんあった。
けれども、一つも聞き逃さんと肩肘張る必要はない。
せっかく休憩しているのにそれではあなたの気が休まらないだろう。
だから、これは幕間のようなものだと捉えてくれればいい。
俺と千歳の思い出話を埋める隙間。目立たない凡庸な一時。
でも、普通だったら歴史から忘れ去られてしまいそうなそんな時間が、俺はどうしようもなく好きだったりもする。
さて、余談はこれくらいにしてそろそろ語り始めようか。
とりとめのない『幕間の一日の話』を。
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