地球侵略はすぐそばに

すずめ

地球侵略はすぐそばに


「もし隣の席に座ってる人が侵略計画中の宇宙人だったらどうする?」

 部活帰りに父が営むラーメン屋に寄ったが、席について早々にまたタクが突拍子もない事を言い始めた。

 タクは色々な『もし』を想像するのが趣味なのだ。バドミントン部のキャプテンとしてかなり実力がある癖に、将来は小説家を目指しているとかで常に話のネタを考えている。変な親友だ。

「地球人の様子を一人ひとり監視して、生かすか殺すか決めているんだ。ほら。隣にいるぞ。さあコウタ、どうする」 

 僕の隣に座った大柄な男が、体勢を変えつつ黒のキャップの下からチラッと視線を寄越してきたのを感じた。声がデカいんだよ。

「ほら、醤油ラーメンおまち!」

 目線で静かにしろ、と合図したところで丁度父がラーメンを持ってきてくれたので、ふうふう冷ましながら麺をすする。汗で冷えた身体に香ばしいスープの熱さが心地良い。

「タクには言ってなかったんだけどさ。実はこの店、裏メニューがあるんだよね」

 わざとらしく声を落として囁く。

「えっ?どんなの?」

「それは言えない。でも殺さないでくれるなら、俺の名前出せば裏メニューを提供してあげられるように父さんに交渉するわ」

 宇宙人限定で。と付け足してメンマをかじるとタクは吹き出した。

「ラーメン屋の裏メニューで見逃してもらえるかな。まあコウタの父ちゃんのラーメンマジ美味いけど」

言いながら味卵を口に入れて、満足気に頷く。

「タクはどうするわけ」

「有名小説家になって、その宇宙人の故郷の星を舞台にした作品を書き上げる事を約束するね。絶対故郷が恋しくなるだろうし、悪い気しないだろ」

 大した自信だ。

「時間稼ぎにシリーズ物にしとけよ」

「名案だね」



「コウタ、うちの店に裏メニューがあるなんて広めたか?」

 会話も忘れた1か月後、ラーメン屋から帰ってきた父にそう聞かれた。

「最近、お前の名前だして裏メニューをねだってくる奴らがいるんだよ」

 

 個人情報が漏れてるんじゃないか?と渋い顔で肩を小突いてきた父の顔を見て、そういえば、少し前に学生証を落とした事を思い出す。学校に届いて安心していたけど、まさか。まさかな。

「父さん」

「気をつけろよ。あと有りもしない裏メニューの噂を立てるな」

「宇宙人かもしれない」

「はあ?」

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