第四章 錯覚

ママが泣きそうな表情で近づいてくる。


すぐにでも駆け寄って、手を引いてあげたいのに。

僕の両足は意思とは反対に固まったままだ。


ようやく辿り着いたママの両目が潤んだように光ってみえたのは、僕の錯覚だろうか。

いずれにせよ、ママの目には僕は冷たい息子に見えているだろう。


いやだ、いやだ。

本当は手を繋いで、一緒に歩きたいのに。


こんな人ごみでも、いや、人ごみだからこそママと一緒になれると思う。

寄り添いながら歩くカップルが何組も目につく。


あの人達とは全然、違うけど。

僕はチョッピリ、うらやましくなったんだ。


そう、思ったんだ・・・。

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