第三章 マイ・ボーイ

スクランブル交差点には大勢の人々が引きめし合っていた。

平日なのに、都会がこれほどの人出とは予想を超えていた。


私とタックンはオドオドしながら、人ごみをかき分けるように歩いていた。

時々、追いこされた人の陰に見失いそうで必死に息子の後を追いかける。


まるで母子が逆転したように、二人は歩いていた。

息子は足も長くスタスタと進んでいくのだけど、運動神経がにぶい私はモタモタとついていくだけだ。


一緒にスーパーに買い物に行っていた数年前とは真逆の構図だ。

何度か、立ち止まり待っている息子の視線が非難しているようで辛い。


今日は朝から二人きりのお出かけ、自分でデートだと思い込んでいた楽しい「お買い物」だったのに。

愛おしい私の「マイ・ボーイ」は冷たい視線で私を見つめている。


涙もろい私の瞳はジワッとした膜を作り、タックンの顔が薄っすらと滲んでいくのだった。

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