Episode 1 覚醒

〈ユーザー名――トール・ウォーリア〉

〈コールド・スリープ状態を確認〉

〈解凍――開始〉


 音声案内と共に、カプセルのシェルターが開く。

 目を眩ませた外の世界の光は、実に久しぶりと言えるものだった。


「ここは……」


 覚醒しきらない思考を巡らせ、トールは自分に置かれた状況を思い出す。


「そうか、時間が来たのか……」


 八十年前。人類は謎の怪物――デストロイに破滅を強いられることになった。

 人類は総力をもって怪物に反抗した。しかし、デストロイを倒すまでの技術を、当時の人類は持ち合わせていなかった。

 ならば、未来に託すのみだ。

 誰かがそう言って、未来の世界を担うために選ばれた若者たちは、老いもなく食事も必要としない冷凍保存――コールド・スリープを実行することになった。

 そうして冷たいカプセルの中で、トールたちは眠っていた。


 ――なら、他にも仲間がいるはずだ。

 思い立って体を起こし、辺りを見渡す。

 

「いない……?」


 仲間が入っていたはずのカプセルは全て開いており、その中身は空だった。


「みんな、先に目覚めたのかな……」


 地に足を着け、トールは地上へ向かう昇降機エレベーターに向かう。

 スイッチを押すも、昇降機には反応が無い。

 疑問を抱きながら、横に付いていた階段で上ることにした。


「どうなってるんだ、いま……」


 一時間ほど掛けて階段を上り、地上へ辿り着く。

 外へ出るための扉に掛かったセキュリティロックを、コールド・スリープ前に持たされたカードキーを使って解除する。

 扉を開け、外を覗き込んで――トールは言葉を失う。

 草木に建物は浸食された建物。

 ひび割れた大地。

 空には覚醒前と同じ怪物。

 怪物はトールを目で捉え、翼を羽ばたかせる。


「……クソ、マジかよ」


 人類は、負けたのか――思って、トールは目を伏せる。

「せやああああああああああッ!」


 デストロイとは違う、もう一つの声。

 人間の――声。


 トールは思わず目を開け、声の主の姿を確認する。

 毛先が赤く染まった黒髪を舞わせて、は高く跳躍し――背丈よりも長い金属の塊を振り上げ、デストロイの脳天へ叩きつけた。


「――嘘、だろ」


 撃墜したデストロイと主に地に降り立つなり、少女はトールの方に振り向いて、


「驚いた! まさか他にも人間が居たなんて!」


 いや、驚いたのはこっちなんだが。


「ちょうどよかった! ねえ、わたしのカメラマンになってくれない?」

「……はい?」


 戸惑うトールを置き去りに、アザカは背負っていたリュックから何らかの電子機器を取り出す。


「それは?」

「んー? 最新のカメラだよ! 撮影と録画以外にも、配信機能まで付いてるんだよ! そっかー、は無かったもんね!」


 ……九十年、だって?


「待ってくれ、俺は眠っていたのは八十年のはずだ――」

「はい、いきなり行くよー!」

「人の話をだな……!」


 三脚の上に立ったカメラのレンズに向かって、アザカは勢いよく口を開く。


「終わりの世界にこんにちはー! アザカだよ!」

「……? なにやってるんだ? てかなにそのゾッとするフレーズ」

「ほら、君も自己紹介して」

「トール・ウォーリア、です……? っておい、まさかこのカメラ……いま配信してるのか!?」

「このトール君には、これからアシスタント兼カメラマンをしてもらいまーす!」

「……ん?」

「これからトール君をよろしく!」

「勝手によろしくしないでくれ!?」

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兵器少女の終末配信 鳳仙 アザミ @AHOUSEN

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