兵器少女の終末配信

鳳仙 アザミ

Prologue

「ねえ、ここで撮ろうよ」

 赤黒い髪を纏った少女は言う。

「ここで、か?」

「うん。わたし、ここがいいな」

 俺は静かに承諾して、カメラをセットする。

 少女は喉の調節をしながら、機材の準備を待っている。

「準備完了。いつでもいける」

「それじゃ、始めよー!」

 カメラのボタンを押すと、ピコンと起動音が鳴る。

 三秒ほど経ったあとに、俺は静かに手をかざし、キューの合図を出す。

 頷いて、少女は元気よく、

「終わりの世界にこんにちはー! アザカだよ!」

 カメラに向け、いつも通りの挨拶をする。

 もう何十回と見てきた挨拶は、終わりの世界には眩しすぎるような気がした。

「今日はなんと……海に来ちゃいましたー! いえーい!」

 その海は黒く、濁っている。

 海岸には戦闘機の残骸が堕ちている。

 それでも彼女にとっては海で、ひとつの憧れだった。

 ……こんな汚れた水たまりを、海だとは言わせたくなかった。でも、そこで真実を伝える方が野暮だってことは、理解してるつもりだ。

「水着は持ってないから入れないけど、この映像を見たみんなが、少しでも幸せになればいいな!」

 その『みんな』は、一体何処にいるのだろう。


「今日の撮影はおしまいっ! また次の配信で!」

 

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