第2話


 「うそ……、更新されてる?」


 塾帰りの車の中で、お母さんに頼み込んで入れてもらったその小説投稿サイト「シッピツ」をみたら、大地君のページに更新を知らせるマークがついている。朝見た時はなかったから、学校から帰ってきてから更新したのだろうか。


 私は家に帰るまでそのページを開けることはせず、帰宅と同時に自分の部屋に駆け込んだ。


――うそ、更新って、あの続きを書いたってことだよね?!


 顔が熱ってくるのがわかる。それは階段を駆け上がってきたからではない。スマホを持つ手に汗がじわりと湧いてくるのがわかる。私はドキドキしながら、第一話絶対誰にも、内緒だからのところをそっと指でタップした。一番上にタイトルの『隣の席の読書好きな彼女が大好きな僕と、それを知らない君』が大きく太い文字ゴシック体で現れ、大地君のペンネームと、その下にサブタイトル《絶対誰にも、内緒だから》が書かれている。そして、その下に、いよいよ第一話のお話が、美しい明朝体で始まっているようだった。私は口から心臓が飛び出るくらいの緊張感で、そっと指をスクロールした。



――…………うんと、うん……。


 大地君の書いた小説と思わしきそのお話の文章が、私の胸に突き刺さってくる。どう表現したら良いのだろうか。胸が苦しくなってきて、さっきまでの緊張感とはまた別の緊張感に体が包まれ始めている。なんなら、脇に嫌な汗もかいている気がする。


 正直、読みにくい。文章が文章であるようで、ないようで、いつも文庫本の小説ばかり読んでいる私には、正直読み進めるのが苦しかった。


――い、いやしかしだよ? 中学生で小説を書くことに挑戦してるってことだけでも、すごいことじゃんね?


 そう思って、千文字程度の第一話絶対誰にも、内緒だからをなんとか読み終えた。簡単に説明すると、「小説家にいつかなりたい僕が、人生経験のために交際を申し込んできた女子と付き合ってみたけれど、めんどくさくて好きになれなかった。けれど、読書が好きな隣の席の女の子なら、僕の気持ちをきっとわかってくれる気がする」というようなお話だと思った。多分、だけど。


――それで、隣の席の読書好きな女の子に、自分が小説を書いてますってカミングアウトして、それで「絶対誰にも、内緒だから」てメッセージを送る、みたいな、そこで第一話は終わってるのか……。って、ちょっと待って? と、いうことは、私は大地君に好きって言われたって、勝手に勘違いしているってこと??


 修学旅行で行った、アニメショップの入り口で、大地君にこの小説投稿サイトを教えてもらった時間に脳内の記憶を巻き戻してみる。「小説は読むのも書くのも好き」って聞いて、それでどこで読めるのかを聞いた。その後宿泊先のホテルでこっそり覗いたのが、このページ。


――私、タイトル見て、勝手に思い込んでたんじゃない? これ、私のことが好きって書いてるわけじゃないよ……ね?


 もう一度最初から読みにくい文章を読んでみるけれど、どこにも「僕は読書好きな隣の席の女の子が好き」とは書かれていなかった。


 愕然がくぜんとした。勝手に両思いだと思い込んでいた自分が恥ずかしかった。一気に熱は体から引いてゆき、汗ばんだ体が急に冷えてきた。


――私、思い込みで、勝手に両思いだと思ってたってこと? でも、じゃあなんで、私に内緒の秘密を教えてくれたの? 大地君?


 こみあげるような感情は涙腺を刺激してくる。ぼやけた画面で映し出されている物語らしき文章は、紛れもなく大地君が書いただろうものだった。


――両思いじゃなかったのかもしれないけどさ、でも誰にも内緒のことを教えてくれたってことはさ、少なからず、私のことは信頼してて嫌いじゃないってことだよね? そうだよね? 大地君……?


 思わずぽろっと涙が落ちた。私はその涙をぐしっと右手の甲で拭って、意を決した。


「だったら、信頼にだけは答えたい」


 私はハートマークの応援ボタンを押して、コメントを書いた。


《 続き、楽しみにしています! 》


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