(3)
「ん……何をやってる?」
その時、俺の偽物は課長が手を懐に入れた事に気付き……。
「うわああああッ‼」
「ぎゃあああッ‼」
課長は、背広の内ポケットから取り出した小型の防犯スプレーらしきものを噴射……って、えっと……これ……マトモな防犯スプレーなのか?
課長の顔は赤く腫れ上がり……俺の偽物の顔は……それ以上に……えっと……こ……これ、治っても痕残るんじゃないか?
2人まとめて地面でのたうち回っている。
えっと……。
このヤバそうなガスか何かを吸わないように逃げた方がいいのか?
それとも……ガスか何かが拡散して無害になるまで待った方がいいのか?
それともそれとも、もう近付いても大丈夫なのか?
ともかく、俺は意を決して……。
俺の偽物が持っていた、俺がいつも使っているビジネス・バッグを持ち上げる。
ん?
何かいつもより重い。
鞄を開けて……IDカードはいつもの場所に有ったが、問題はそれじゃない。
何考えてやがる……。
「正義の味方」監査委員の公務をやる場所は最寄りの「レスキュー隊」支部。
そして、「レスキュー隊」は今は別組織とは言え、元々は「正義の味方」達の人命救助部門だ。
当然ながら……「魔法使い」その他の「特異能力者」がゾロゾロ居る。
「少々強い(らしい)改造兵士」がこんな武器1つで暴れても……最大限巧く行っても1分以内に鎮圧されるだろう。
それどころか、こんなモノを「レスキュー隊」支部に持ち込んだ事がバレた次の瞬間には無力化されている。
「勝者こそ正義」は正しい。ただし、一般的な解釈とは逆の意味で。
馬鹿だ。
やっぱり、ウチの上部組織を含めた「悪の組織」は馬鹿ばかりだ。
馬鹿なのに、自分達を「脳内が御花畑な『正義の味方』とは違う理性的な現実主義者」だと妄想していたから、「正義の味方」どもに負け続けたのだ。
「おじちゃん達、何してんの?」
その時、子供の声。
「あ……」
通学途中らしい小学生の一団が……俺達が居る路地を覗き込んでいる。
「え……えっと……いい子のみんな、プレゼントだよ。おじちゃんからもらったって、誰にも言っちゃだめだよ」
「あの……おじちゃん、何言って……えっ?」
俺は、俺の偽物が鞄の中に入れていた……
駆けた。
走った。
急いだ。
気にするな。
「レスキュー隊」本部に着くまでに、気持ちを切り替えろ。
その後の事は、肝心の「その後」が無事に到来した時に考えればいい。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け、俺。
気のせいだ。
絶対に気のせいだ。
絶対に絶対に絶対に、背後から拳銃の発射音みたいな音が聞こえてきたのは……誰が何と言おうと気のせいだ。
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