第二章:POWER FOOL

(1)

「お前とも、長いようで短かい付き合いだったな」

「はぁ……」

 更に翌週の月曜、ついに俺の偽物が完成し……と言っても誰かの顔を俺そっくりに整形する手術が終ったと云う事だが……俺に成り代って「正義の味方」監査委員の公務に行く事になった。

『逃亡もせず、自称「正義の味方」どもに密告もしなかった事だけは誉めてやろう』

 自社の会議室のモニタには……上部組織の幹部が写っていた。

『こちら「古川良二」。太宰府駅に到着しました』

『では、の古川君。に指示を頼む』

 一週間の「運用試験」で問題が無ければ……俺は「殺処分」。そして、こいつが名実ともに「本物の俺」になる。

「『レスキュー隊』太宰府支部に向かって下さい」

『了解しました』

「到着したら、一般用の出入口では無く、職員用出入口から、渡したIDカードを使って入って下さい。職員用出入口の場所は到着したら教えます」

 会議室のモニタには、もう1つウインドウが開き、俺の偽物が身に付けているタイピン型の小型カメラから送られてくる映像が映し出されていた。

『IDカードはお前からもらったものでは有りません。最初から私の所有物です』

「あ……あの……この人……日本語おかしくないですか?」

『些細な問題だ』

「あと……私、九州弁っぽいしゃべり方ですが、この人のしゃべり方、関西弁っぽくないですか?」

『それも些細な問題だ』

「あと、着いた後、おどろくといけないので、先に言っときます」

『なんですか?』

「まず、レスキュー隊の職員から検査を受けますが……そのレスキュー隊職員は、普通の人間の姿をしてません」

『おい、待て、何を言ってる? 聞いてないぞ』

 上部組織の幹部から割り込み。

「ええっと……その……鬼のような姿のレスキュー隊職員に検査を受けますが、いい人なんで驚かないで下さい」

『違う、そっちじゃないッ‼』

「何でしょうか?」

『検査って、何の検査だ?』

「魔法による検査です」

『だから、その魔法とやらを使う目的は何だ?』

「洗脳や精神操作をされていないかを調べる為です」

 ……。

 ……えっ?

 大型モニタに映る上部組織の幹部の顔が……。

 何て言うか……。

 でも、笑っちゃいけないよな……。

 と言うか、何で、こんなマヌケな表情かおしてるんだ?

『困りました。私は精神操作を受けていますので……私の予備機ではないとバレる事が予想されます。作戦中止の場合は規定の手順で中止命令をお願いします』

 俺の偽物が淡々とした声で、そう言った。

 まるで……昔の駄目なSFの「プログラムした通りには動くが、思った通りには動いてくれない駄目なロボット」だ。

『き……緊急中止だ……』

『ですので、規定の手順でお願いします』

「あ……あの……規定の手順って何ですか?」

『この作戦の責任者もしくは副責任者による直接命令だ』

「あの……俺の偽物……目的地に向かって歩き続けてるみたいですけど……」

 俺の偽物の隠しカメラから送られてくる映像を見て、俺は、そう指摘した。

『失礼な事を言いやがるなです。本物は私で、お前が予備機です』

『おい……本物の古川君、目的地まで、あと何分だ?』

「一〇分ぐらいです」

『一〇分ぐらいです』

 俺と偽物が同時に答える。

「あの……責任者って……?」

『私じゃない。別の会議で居ない』

「では……副責任者は……?」

『それも私じゃない……。たしか、まだ、愛人のマンション……いや、何でもない』

「あ……あの……って事は……その……?」

『あああ、えっと……そうだ……仕方ない……正規の中止命令は間に合わんッ‼ 止めろッ‼ 古川君の偽物をッ‼ ‼』

「わかりましたっ‼」

「わかりましたっ‼」

『わかりました』

 俺と課長は会議室から飛び出し……俺の偽物が居る場所まで……助かった、この会社から走って5分以内。

 止められる筈だ。

 ん?

 待てよ……。

 さっきの3つ目の「わかりました」は誰の声だったっけ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る