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「あの……『正義の味方』達がVSPMDってコンピューター・システムを使ってるらしいんだけど、それってどんなの?」
週明けの月曜の夕方、俺は、再び自社のIT管理部門に電話した。
『また、役に立たない情報だねぇ。その技術なら、どこでも使ってるよ。WEBサイトにオンライン・ゲームのサーバに……何でもかんでも』
「えっと……まさか、その……それが無いとインターネットそのものが成り立たないような技術なの?」
『そう云う事。
「どんな技術なの? 俺みたいな馬鹿にも判るように教えて」
『たとえば、あるWEBサイトにアクセスする場合、WEBサイトにアクセスしてるコンピュータから見れば、そのサイトは1つのサーバに見える。でも実体は世界各地に分散してるいくつものコンピュータで「1つのサーバに見える」のは、あくまで見せ掛け。そして、世界各地に分散してるいくつものマシンの……まぁ、設定にもよるけど、半分から四分の三がダウンしない限りは……そのWEBサイトの処理能力は落ちても、サービスそのものは提供可能なまま。まぁ、そんな感じかな?』
「な……なるほど……何となく判った」
『ところで、今、どこに居るの? 電車の案内みたいな声が入ってるけど』
「い……いや……ちょ……ちょっとね……」
自分の所属組織……正確には、その上部組織に「殺処分」されると判っているのに、何故、逃げ出さない?
殺されると判っているのに、何故、俺を殺す事を決めた奴にとって価値が有る情報を探り出そうとしている?
俺の推測が万が一本当でも……どうせ死ぬのに「ざまぁ」が出来て何の意味が有る?
いくつもの疑問が脳内に浮かぶ。
俺は、故郷の久留米に来ていた。
と言っても、会社の寮や「正義の味方」監査委員の仕事をしている太宰府市内からは……電車で一時間前後だ。
ただし、久留米に来る時に、いつも使っている西鉄久留米駅ではなく……1㎞ほど離れた場所に有るJR久留米駅。
例のVSPMDとか云う技術を開発した眞木と云う学者は……若くしてアメリカに渡り、三〇代後半になってようやく工学博士号を取得したらしい。
今の俺と同じ位の齢だ。
だが、俺の人生は、もうすぐ終り……眞木と云う学者の人生は、今の俺と同じ位の年齢になった頃から始まった。
工学博士号を取得してから十年足らずの間に、コンピューター関係の分野で多くの業績を上げ、世界各地の大学から招聘され、そして韓国のソウル工科大に赴任。
そこで……俺には、何の事か良く判らないが、ともかく今のインターネットに無くてはならない技術を実用段階にまで持っていき……。
更に、インド工科大学と中国の清華大学より教授待遇で招聘を受け……。
だが、眞木と云う学者が人生の絶頂に有った時に事態は急変する。
第二次朝鮮戦争……通称「一週間戦争」……の勃発。
その時に眞木は日本に戻ったらしい。そして、下手に日本に戻ったせいで、その後の眞木の学者・研究者生命は断たれた……。
一般には、そう言われている……Wikipediaの記述に依れば。
Wikipediaに書かれている経歴も、第二次朝鮮戦争直前から、一気に死まで飛んでいる
だが、眞木と云う学者の出身地は、この久留米。
そして、日本で最初に「正義の味方」達の活動が確認された場所の1つも……また、この久留米を中心にした地域。更に、その時期は……第二次朝鮮戦争直後。
俺は、JR久留米駅の西口を出て、筑後川方面へ歩き……。
この場所こそが……日本各地に有る「水天宮」の名と云う神社の総本社だそうだ。
その水天宮の鳥居を抜け、少し歩き……。
侍の銅像が見えた。
多分、小説なんて書いてるから……本当は関連が無いモノの間に関連を見出すような……陰謀論的な思考に陥りがちなんだろう。
そして、人生の終りが近付いてる事が……俺の妄想に拍車をかけた。
きっとそうだ……。
でも……ひょっとしたら……。
今のインターネットに不可欠なVSPMDとか云う技術。俺の悪い頭で理解出来るのは……その仕組みと「正義の味方」達の組織が似ている事だ。いや、この理解も間違っているかも知れないが……。
でも、もし、俺のこの理解が正しいなら……そのVSPMDとか云う技術を生み出した眞木とか云う学者が「正義の味方」達の組織を生み出した1人である可能性が有る。
そして、もう1つの「もしも」。
その眞木と云う学者は……この水天宮の宮司の一族かも知れない。
いや……妄想が過ぎる。
死から逃れようとする勇気さえ無いボンクラの……人生最期の妄想だ。
きっと、そうに違いない。
でも……。
小説のネタとしては面白いな。
けど、書き上げる時間は残ってない。
この水天宮から……日本最初の「正義の味方」が生まれた、なんて……。
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