Case.1
「
10ヵ月間、僕らをシゴキにシゴキ続け、聞くだけで伸びきっているはずの背筋をさらにピン、と張ってしまいそうになるような反射を植え付けたその声も、今日はいつもよりも力強く、それでいてどこまでも優しくなっている気がした。
「はい!」
負けじと張り上げた声に、彼は成長を感じてくれただろうか。そんな思いを込めた返事のあとに僕の所属が読み上げられると、会場が少しざわつく。まぁ、そうなるよね。だって僕みたいな『ヒト』が、わざわざ自分の身を危険に晒すようなところに行くんだから。
でも、だからこそ僕は行きたいんだ。苦しんで、助けを求める誰かのために。
そしてその誰かを少しでも減らすために。
深く礼をして頭を上げると同時に、背中に柔らかい何かが触れる。
「
顔は動かさず、目線だけを自分の右側に動かしながら小声で話しかけると、視界の隅で話しかけた相手が肩をすくめてとぼけた顔をするのがみえた。
「なんの話だ? 俺は何にも……おっと悪い‼ こいつ利かん坊なんだ」
彼も小声で言い返してきて、その間にも僕の背中にはバシバシ、と繰り返し柔らかいものが当たる。
「ねぇ、わざとでしょ。きみの尻尾が長いのはもう分かったから」
その言葉に、網目くん可愛らしいたれ目を細めてシシッ……と笑う。その目を縁どるまつ毛は、長くて綺麗だ。
僕になくて、彼にある。
僕らになくて、彼らにある。
この世界の当たり前。
「
名前を呼ばれた彼が立ち上がる。
僕なんかよりずっと長い脚に、すらりと伸びた首筋、そして額から小さく生える丸い角。履いたズボンの後ろ、腰より少し下には専用のジッパーが。そこから垂れる尻尾は左右にゆらゆらと、楽しげに揺れている。
たくさんの人種が存在する世の中で、大きく分けるとすれば、主に基準となるのはこの2つの人種なんだろう。
『ヒト』と『獣人』
僕はヒト。言葉を話し、道具を扱い、2本の足で歩く。
「は~い」
彼は獣人。言葉を話し、道具を扱い、2本の足で歩く。顔立ちだって僕とさほど違いはない……いや、網目君はかなり整っているけど。まぁ、それは置いといて。
ヒトと同じ特徴を持ちながら、獣人の彼らにはもうひとつ。自然界で生きる動物たちの特徴が備わっている。網目君の場合はキリンだ。
『ヒト』と『獣人』がいて、ヒトのなかにさらに人種があって、獣人のなかにもさらに人種があるっていう、たったそれだけ。僕はそう思っている。
そして僕、
今日から、やっとそのスタートライン。
厳かに進む式の中、僕はその喜びに胸を躍らせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます