第48話 誓約の変更
「陛下、ローダネル伯爵令嬢が第6領領主様を所有するとなると、第6領領主様の誓約が無効になる可能性が御座います。また、叙爵によりローダネル伯爵令嬢の姓名が変わるので、此方との誓約も失効になる可能性が」
宮廷魔法導士様が眉を顰めつつ、生じ得る問題を挙げた。確かにそれは拙い、この中で誓約が無効になって得をするのは魔王だけだ。陛下にも私にも、守りたい何かがあって相手に結ばせた事実がある。
「ローダネル伯爵令嬢、支配及び隷属に関する知識はあるか?」
「御座いません」
この国での奴隷の個人所有は認められていない。被雇用側には働きに見合う賃金という対価があり、条件に不満があれば辞職することは出来る。奴隷とは、そういった権利がなく無賃且つ無条件で一生涯を労役に徹することを強いられる者を指し、国法でこの身分に貶められる者は犯罪者のみと決められ、国有の労働力として未開地開発の現場作業等の危険な労務に強制従事することになっている。犯罪奴隷の与し方は法務関連部署の門外不出であり、守秘義務の誓約をした担当部署の重役が厳重に秘匿しているという。
魔王は国賊と言えなくもないけれど、今は実害が出ていないし、この先も自領が開発されれば他人種の生活圏へ攻撃を仕掛ける理由はなくなるだろう。情報漏洩さえ防げれば無害な存在になる筈だ、情報漏洩の防止は何としてでも徹底させなければならないけれど。
陛下のいう支配と隷属に関する知識とはこういった国法の内容ではなく、個人の完全掌握を指しているのだろうから、ない、と答えた。個人で人身掌握する方法を知っているだけでも問題だろうし、実際に技術を持っていたらそれこそ私は国から追われる立場になってしまう。
エティの魔導秘法館という、全ての前提を覆す存在を所有しているから問われたのだろうけれど。
「必要ならば後に犯罪者を奴隷とする罰則方法は教えるよう。情報秘匿厳守の誓約はして貰うが」
推測に過ぎないけれど、恐らく支配に関する魔法はある。しかし暗闇魔法に分類されるものだろう。その魔法を使えば『復讐の魔女』という称号が復活してしまう可能性を否定は出来ない。けれど既に陛下から私と私の関係者へ攻撃することは出来ない状態にある。
加えての推測になるけれど、この国で使われている犯罪者を隷属にする方法も、エティの魔導秘法館で調べれば恐らくは見つかる、その方法がなくても似たような方法はあるだろう、そうなると誓約は不要な制限になる。推測が外れて暗闇魔法以外で支配の魔法が存在するかもしれないし、暗闇魔法だったとしても既に式典は済んでいるので私を鑑定する機会はかなり少ない筈だ、鑑定を妨害する身分隠匿という技能もある。
「──調べて参ります。方法がなければ、その際はお教えいただければ、と」
私は暫く考えて、取り敢えず調べることを選択した。
「分かった、それについては任せよう。新たな誓約の際に、我が民に対して攻撃をしないことを課してくれ」
魔王が交わした誓約の相手を陛下から私に移すことで対応するようだ。私もイェンメルフォード王国の民なのでそれは構わない。しかし陛下と魔王との誓約書を確認させていただいたところ、ただ国民への攻撃をしないという内容になっていた。
「自衛、反撃、許可を得ての攻撃を対象外にさせますが、宜しいでしょうか?」
王宮の中から出られないようにしていたから、基本的に第二王子殿下に成り済ましている魔王を傷つけるような事態にはならないという想定でいたらしい。それならば確かに自衛も反撃も必要ない、けれどこの先は違う。魔王が王宮の外で行動することが多くなる。
何もせずに攻撃をされるのを見過ごすことも問題だ、条件は加えさせていただく。
「確かに万が一にも殺されでもしたら大事ではあるが……」
「良いのか? 魔法素が回復しさえすれば、吾輩はこの姿であろうと一撃で普人種を殺せるぞ?」
「加減はして下さい」
後で細かい条件を指定しなければならないようだ。
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