第47話 口約束
私の言葉に陛下の顔が蒼白になる。回避したとはいえ魔女になる予定だった者が魔王という強力な戦力を個人で所有しようというのだから、それはそうなるだろう。
「急に積極的だな、巫女殿。吾輩としては嬉しい限りだが」
「結果が変わらないなら、より都合の良い方を選択するだけです」
反対に魔王は口端を吊り上げる。自分が他人に所有されることになるというのに暢気なことだ。それとも自力で逃げ出す手段でもあるのだろうか、そうなったら生命で支払って貰うことになるのだけれど。
「いや、待て、それはさすがに」
「私以外に割ける人員がいらっしゃるのですか? 喜んで爵位共々お譲り致します」
「それは困るな。弱体化しているとはいえ、吾輩を単身で倒した巫女殿だからこそ支配まで許すのだ。他の誰かに隷属する心算はない」
「……………………」
陛下は頭をお抱えになってしまわれた。気持ちは分かるけれど陛下が停戦と不可侵を諦めない限り、私が単身で魔王の要求に対処することは変わらないだろう、そうなると結果も変わらない。
「──即時、攻撃停止は可能か」
「吾輩には手段がない。巫女殿に期待したいところだ」
「少なくとも調べる為のお時間を頂戴致しますし、方法が見つからなければ帰還後に止めさせる他はないかと愚考致します」
「その後の不可侵は誓約し得るのか」
「吾輩の配下の手の者であれば、可能だ。他の手の者がいるなら、さすがにどうにもならん」
「その手の者に対し、我が国に助力して貰えるのか」
「さぁ? 吾輩の所有者次第だろう」
頭を抱えたまま、陛下が視線を私に投げてくる。
「……必要であれば、国民の一人として助力させていただきます」
「!」
先程の妃殿下の言葉に虚偽はないと思えるけれど、陛下が妃殿下を安心させようと口先で言った可能性を否定は出来ない。しかし私としても口約束とはいえ、陛下が、この国が私に攻撃を仕掛けないなら、私もこの国を裏切らないと宣言はしているし、積極的に敵対行動を取る心算はない。攻撃して来たら容赦はしない、という意志表示は今後も言動で示し続けると思うけれど。
酷く緩慢な動作で、陛下が顔をお上げになった。明らかに安堵の表情を浮かべている。
「我が民でいてくれるのか」
「口約束だとしても、それを違えることは致しません」
「そうか、そうか……」
示威行為が過ぎていたことを認めなければならないだろう。先程も魔王個人に対し範囲攻撃を仕掛けて対象外の御三方を巻き込んでしまったし、今までも威嚇の程度が過ぎていた可能性は消せない。
本当に私は生き残ることだけしか考えていなかった。【復讐の魔女】の運命を回避した今、それは改めなければならない。不要な仮想敵を作っても心労を抱え続けるだけだ。
「但し必要であれば、とさせていただきます。明らかに国で対処し得る、あるいは衛兵が怠けて鍛錬を怠った、と判断した場合は加勢を致しません。また私の所有物を国有とすることも認めませんので悪しからず」
それでも前提として、敢えて親しくする心算は、ない。
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